いつだったか、確かそれは
中学2年生くらいの頃、
まだ僕は富田林という片田舎に
思いっきり住んでいた時の話だ。
土日がこようものなら、
阿倍野、天王寺という
当時の感覚からすれば
それはそれは大都会に、
電車で片道45分かけて行くのが
楽しかった。
(難波は怖すぎて行かなかった)
当時の富田林にはダイエーと
古本市場とアミスターという
ラブホテルしか無かったのだ。
そして例によって休みの日、
同じ中学でその頃から
仲の良かったマーボーとタダミと、
阿倍野という大都会に出かけた日。
あの頃はまだ百貨店の屋上に
情緒のある遊園地が存在していた。
そこには古びた
メリーゴーランドがあったり
訳の分からないゲーム筐体が
やたらと並んでたりして、
令和では想像出来ないような異空間が
広がっていたのを覚えている。
そこで僕とマーボーとタダミが
目をつけたメダルゲーム機、
『ドルアーガの塔』。
これはどうやら1階から
100階までのありとあらゆる
モンスターや障害を乗り越え
無事に100階までたどり着ければ
大量のメダルが出てくるという
胸が踊るゲーム内容だった。
男心をくすぐられた我々は
早速、ドルアーガの塔を制覇しようと
メダルを投入した。
1階で早速、なにやら宝箱のような
ものをGETし、それを開けると
アイテムが手に入った。
『ふうせん』
である。
『ドルアーガの塔』という
おどろおどろしいタイトルをした
ゲームのアイテムとしては、
いかにも頼りのないアイテムだ。
所詮空気の入った割れやすいゴムに、
なにが出来るというのであろう。
いやしかしまだ1階、
欲を出してはいけない。
ここから様々な試練が待ち構えている。
ふうせんをGET出来ただけでも
一歩前進。と、ポジティブに
捉えた。
するとその瞬間、主人公の勇者は、
ふうせんに掴まり、
そのふうせんと共に
ふわふわと浮上し出した。
目をギョッとさせた我々3人は、
画面越しのまさか過ぎる光景に
釘付けになった。
勇者はそのふうせんに掴まったまま
2階、3階、いや10階、20階、へと、
表情1つ変えずに
みるみる上昇していくのである。
この時点でもう、我々の
気持ちは置いてけぼりである。
覚悟していた様々な試練や
モンスターとの格闘が、
ふうせんというアイテムによって
壊されていくのだ。
おい勇者、止まれ。
ふうせんで楽をするな。
バトルは?え...バトルは?
というかそのふうせんなに?怖っ
プライドとかは無いの?
と言った勇者への疑心暗鬼が
とめどなく溢れ出てきたが、
凛とした表情を保ったまま、
勇者は訳の分からないクソアイテムに
頼りきっている。
これはダメだ。
結局そのまま勇者は
100階まで辿り着いた。
はっきり言って
爆笑した。
笑い転げたのを覚えている。
たった1回のターンで
ふうせんをGETし、
そしてそのままドルアーガの塔を
制覇してしまった。
NO バトル
NO アドベンチャー
我々は何もしていない。
何の物語も、繰り広げられていない。
というか画面上のコイツらも、
何もしていない。
その場にいる全員が、
何もしていないのである。
下からは大量のメダルが
出てきた。
不労所得である。