建築家の作品を手掛けるような、技術に優れた施工会社にいろいろお話を伺っている。何かくさびを打つ必要がありそうだ。

 まず就職人気がないそうだ。工業高校を卒業して工務店に、というのが従来のキャリアであったが、全国に声掛けしてもなかなか成り手がいないという。きつい、きたない、きけん、という印象である。パティシエや美容師など他の道に進んでいく。

 せっかく採用しても3年も経たずに、退職してしまう。言われたことだけしかやらない、定時で終わる、有給はとる、という姿勢で、現場で厳しい状況に置かれると、「思っていたのと違う」とあっさりやめて他業界に転じる。一緒にモノを作り上げる喜び、後世に作品が残る誇り、というのを味わうこともない。

 なにしろ大学に施工管理の学科がない。土木工学や化学工学とかあって土木技師やプラントエンジニアを輩出するのに、肝心の施工管理については工業高校や専門学校、現場任せというのが日本の教育界である。PERT図やプロジェクトマネジメント、リスクマネジメントなどの知識体系も重要なのにもかかわらず。

 叩き上げの熟練現場監督も、そろそろ定年を迎える時期だが、その技能を継承する相手が少ない。多くの職種をまとめて、とりあいをおさめる知恵、難条件も工法や工程の工夫でやりやすくする能力、一緒に力を合わせていくコミュニケーション、などこのままでは引き継げないかもしれない。

 そうすると建築作品にチャレンジするのではなく、ありきたりの簡単にできる案件を受注するようになってしまう。価格と納期が最優先で、現場としてはやりがいはない。

 

 もっとも、お話合いをしていると、いくつか可能性が考えられる。

 現場監督は、人材紹介市場でも引き合いが多く、年収1,000万円以上にもなる。再訓練でこうした技能を身に着けられるのであれば、魅力的だとも思える。若手がすぐ辞めるといっても、家庭を持って守るものがあると長続きもする。

 たとえば建築学科の学生も、セルフビルドに関心がある。設計の道ではないにしても、モノづくりに関わりたいという意欲も強い。いまのところは諸事情で長続きはしていないが、最近では女性も現場に進出している。

 そのノウハウは先輩たちから見て覚えたものが多いので、熟練現場監督でも他の人たちとノウハウを共有したいという要望もある。次世代に継承するにも、こうしたノウハウを集約・体系化する意義はあるだろう。

 ありきたりの簡単にできる案件では、施工会社同士のたたき合いになるのでここに注力はできない。

 

 これは見過ごすわけにはいかない。コモンの豊かな低層の都市空間を展開するにも、こうした建設技能者を輩出する仕組みは不可欠である。まずは動き出してみよう。