バレエ「眠りの森の美女」を楽しんだのだが、後になって疑問がわいてきた。16歳の姫や宮廷の人々は100年の眠りから覚め、オーロラ姫はデジレ王子と結ばれる。王やお妃、貴族たちも王国を続ける。でも100年前の人たちが現在に順応できるものだろうか?

 16歳のお嬢様について100年後が2024年だとすると、1908年生まれ。ボーヴォワールやカラヤンと同い年、T型フォードが登場した年だそうだ。ベルギーがコンゴを併合した頃で帝国主義の全盛期、植民地からの利益で潤ったブルジョアのライフスタイルと価値観で育ってきた。移動は、馬車と鉄道、船が主体で、ラジオはまだ商用化されていない。その意味では、育ってきた環境や身の回りの情報を主とした身分秩序の世界に生きている。

 一方、デジレ王子がいまの20歳だとすると、デジタルネイティブで何百人もの知人・友人と繋がり、動画やフェイクを含めた圧倒的な情報量を素早く選択できる。科学的思考も当たり前のように身に着けている。推しのフォローで飛行機で世界中を渡り歩き、様々な社会や文化にも触れている。推しの活動資金でバイトも掛け持ちしている。家父長制や身分秩序とかに拘るのはダサい。イスラエルの侵略に反対して学生デモに参加したりする。

 こんな二人が結ばれるにしても、長続きするものだろうか? お嬢様からすれば、価値観は合わないし、テンポが早すぎてついていけない、自分の秩序が乱されるのもかなわない。王子にとってはバーチャル映像に惹かれたものの、会話がまったく噛み合わないし、考え方が古すぎて理解しづらい。100年の違いを、いくら愛があっても乗り越えられる気がしないなあ。昭和の人間なりに心配してしまう。