人手の多い高尾山も、そのうちヤマビルがはびこるのだろう。足元から、ときに首すじまで這い上がって、血を吸い、なかなか出血が止まらなくなる。嫌悪され、来訪者も激減する恐れがある。

 丹沢山中に入ると、シカのけもの道が山から畑まで通じている。踏み固められて、一見、登山道のような整備状況である。探知カメラを付けるためにけもの道を進むと、すぐに地面からクネクネする動きがあちこちで見られる。二酸化炭素と振動に反応しているそうだが、このヤマビルが靴下の上などによじ登ってへばりつく。靴を脱ぐとその中にもいた。幸い、一行は早期に発見して、つまみ上げたので血を吸われるには至らなかったが、女子高生には厳しい経験であった。

 ヤマビルはシカのヒヅメのあいだに着いて移動する。スギ林が十分な間伐もされず、日照が遮られるので下草も生えない。放置されたスギは巨木化して、従来の重機などでは伐採できなくなっている。シカは下草の代わりに、高所で広葉樹の苗木を食べ尽くしてはげ山になる。シカは食べ物を求めて、下方の畑まで進出する。ヤマビルはシカに着いてくる。こうした森の生態系の荒廃が、ヤマビルの分布を拡大させる。

 丹沢辺りでは、十年前まではヤマビルは見られなかったそうだ。それが近隣の山林の荒廃とともにシカが移動してきたと考えられる。シカたちは相模川の浅瀬も渡る。市境や県境はシカには関係ない。その先、高尾山は間近である。森林の生態系の回復、当面は巨木の伐採やシカの生息数の管理などを広域行政で取り組む必要がある。責任者たちもヤマビルに吸い付かれてみたら、緊急度合いが分かると思う。