取引の当事者以外に影響が与えることを経済外部性と呼んでいる。公害や蜜蜂の受粉が例とされる。

 でも、どうもこの解釈は、あくまで人間の都合だけではないかと思う。人間系の経済循環と同様に、自然系に様々な循環があって秩序が保たれている。エネルギーの循環、水の循環、ミネラルの循環などだ。そして人間系による自然系の撹乱が人間系を撹乱させる。例えば、人工林の荒廃が下流の洪水を招くように。このように人間系を包含する自然系の秩序をきちんと捉え、それらの相互作用も経済外部性と捉えるべきではなかろうか?

 そこで自然系の循環はどのように記述できるだろうか? 人間系は貨幣の循環で記述されるのが一般的だが、自然系で貨幣は流通してはいない。そうすると、エネルギーの循環、水の循環、ミネラルの循環など、それぞれを点と矢印で記述することになる。そのレベルは、本当なら地球規模から微生物、分子レベルまでに亘る。しかもそれぞれの循環も複雑多岐に絡み合っている。人知を超えるので、必要に応じたモデル化が大事である。

 森林であれば、日本ではほとんどないが原生林が基本になる。これを伐採し、スギやヒノキなどを植林する。人間系による撹乱である。オオカミも駆除され絶滅される。下草が生えないのでシカたちは、山頂付近まで苗木や幼木まで食べ尽くし、自然植生がさらに失われる。スギやヒノキでは土壌の保持力や保水力も劣るので、土砂崩れや洪水の被害が拡大する。水害対策でダムや堤防を建造する。そうするとミネラルが下流から海に行かなくなり、貧栄養化でプランクトン、海藻、魚介類が生育不全になる。赤潮も発生する。砂浜も失われる。人間系には、食害から水害や食料不足といった影響を与える。これを産業連関表のように定量化することになろう。

 このように自然系から循環を捉えると、伝統的な山の暮らしが撹乱を増幅させず、新たな均衡を達成していることが分かる。手入れできる範囲で計画植林する、薪炭用に間伐する、間伐材で日用品もつくる。シカ猟も適切に行ない肉や皮革を大事に生かす、建築技術を身に着けて材木を家屋に利用する、季節ごとの山の幸も来期以降を見据えて適量だけ収穫する、農地でも収穫分の養分を堆肥で補う、作物も鳥や虫に分ける、といったものだ。外部経済を考えないと経済的には成り立ちにくいが、その外部経済効果を還元すれば成り立つ。

 これも人間系優先の発想になってしまうが、自然系への撹乱を収束させて、新たな均衡を得るという試みとしてもっと掘り下げたい。