GDPには外部経済は入って来ない。でも外部経済が損なわれていると、目に見える経済活動も損なわれる。例えば森林が荒廃していると、洪水や土砂崩れが起きやすく、下流域は水害で経済活動も麻痺する。健全な森林は年間70兆円もの外部経済を生むが、木材が売れないと手入れはただ持ち出しになる。森林の保全には、その外部経済を享受する下流域が費用を負担する仕組みが求められる。森林保全を踏まえた流域治水を施せば、ダムや護岸工事、堤防といった莫大な土木工事も省ける。

 都市環境も同様である。ビルの高層化と地面の舗装が輻射熱を発生させることで、気温は3度上昇する。さらに高層ビルは上空の海風を遮り、無風で体感温度を上げる。こうして夏に猛暑日が多くなり、寝苦しさも加わって仕事の効率も低下する。でも高層ビルのオーナーはこうした外部不経済の費用を負担していない。本来であれば、都市の温熱環境を損ねないように、高層化や舗装を規制する、既存のものには相応の費用負担を課すというのが筋である。

 アルコールの外部不経済を生む。肝機能を損ねて、人工透析に一人年間700万円も医療費がかかる。Alcohol依存症も深刻である。全体で10兆円規模の外部不経済が推計されていた。これに対し酒税は1兆円ほどでほとんどカバーしていない。医療業界におもねっているのだろうか。本当なら、外部不経済を穴埋めできる水準に酒税を課すべきだろう。

 温暖化ガスの排出も外部不経済を生むことは知られている。これに対しては、国(地域経済圏)毎に累積排出量を加味して炭素税を課すのが最も合理的である。しかし日本では利権絡みで、不合理な制度が多い。建築物の省エネ基準で、割高の認定サッシや断熱材を用いる羽目になる。メーカーには特需、関係省庁には許認可権と天下り先が出来た。エコカーやエコ家電に補助金が出るのも、メーカーには好都合である。炭素税だけで十分なのに、不合理で不当利益を生む。外部不経済に筋違いの制度を講じる愚は避けたい。

 

 こんな風に外部不経済を推計すると、年間数百兆円になるだろう。利権まみれの体制では、土木偏重、容積緩和、飲酒容認、偏向制度となって、外部不経済を増長させてしまう。不動産開発や酒造、建築資材など、外部不経済に絡む企業ほど、政権に近いのにも留意したい。これを改めて、外部不経済に対しては、炭素税のように合理的な制度を講じることで、その分、実質的にも豊かになる。制度デザインによるイノベーションは意義は高い。