木造密集地域には地震火災のリスクがある。東京で大地震があると、40万棟が焼失すると推計される。阪神淡路大震災の後から、東京都も3,350ha 52箇所を重点整備地区に指定し、道路を拡幅して延焼遮断帯とする、駅前再開発等で不燃化する、といった施策を講じてきたと言う。

 重点整備地区はおおよそ山手通り周辺に分布している。関東大震災や東京大空襲で焼け出された人たちが、こうした地域で農地を宅地にして住居を設け、高度成長期には木造賃貸アパートをつくる過程で形成されたそうだ。人口密度、木造家屋割合が高く、高齢化も進んでいる、ということで重点を置かれてきた。

 しかし見逃されているのは、木造密集地域がより遠くまで広がっている点である。東京都は五輪を強行するために、意図的に目をつぶってきたのだろうか。

 世田谷区を例にとると、木造密集地域は太子堂周辺と言われてきた。独自分析であるが、延焼しうる距離内にある木造家屋群の棟数を数えると、太子堂周辺は1,497棟に及ぶ。この中の一箇所でも出火すると、これだけの棟数が二三時間で焼失する恐れがある。でももっと多いのが祖師ヶ谷周辺で、4,781棟になる。次いで松原周辺では3,231棟を数える。阪神淡路大震災のときを参考に出火率を0.075%として祖師ヶ谷周辺で火災が起きる確率は97%、松原周辺では91%。太子堂周辺は77%。いずれも著しく危険度が高いが、祖師ヶ谷や松原などは重点整備地区にはされていない。

 こうした地域はいわゆる新興住宅地で、住宅ローンがつく価格帯にするために区画が細分化されて、狭小の木造一戸建てが建ち並ぶ。木造三階建てが認められたのも大きい。その結果として、新たに木造密集地域が広がったことになる。人口集中地区では、延焼限界距離内に木造家屋を建てるのは禁止すべきだった。建売戸建てを大量供給するパワービルダーたちには都合よくはないが。今からでも遅くはない。