土に触れる暮らしは、心身を健やかにする。どろんこ保育園なども流行っているが、その機構はどんなものだろうか?

 ある研究論文によると、土壌に生息する腐生性細菌マイコバクテリウム・ヴァッカエが、免疫細胞のひとつであるマクロファージに取り込まれると、細胞内でペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)と結合し、数々の連なる炎症経路を遮断する脂質「(10Z)ヘキサデセン酸」を放出するという。この脂質は、マウス実験によると、鬱状態やPTSDを予防・改善する。人間の心身のストレスも和らげることが伺える。土壌には、6千から5万種類の微生物が活躍している。マイコバクテリウム・ヴァッカエはそのうちのほんの一種でしかない。

 一方、人間の粘膜免疫システムには腸内細菌叢が大きく関わっている。大腸内では腸内細菌叢が短鎖脂肪酸をつくり、これが大腸のリンパ濾胞において免疫細胞に作用し、大腸内でのIgA産生を増強する。このIgAは腸管内に分泌され、あるいは血流に乗って全身を巡る。血中に移行した短鎖脂肪酸は、さらに小腸パイエル板の免疫細胞にも作用し、小腸でのIgA産生も増強する。腸内細菌叢のバランスがいいと、このように免疫細胞が活性化されて病原体をうまくブロックできる。

 そうすると免疫系を挟んで、土壌細菌と腸内細菌叢が関係していることが分かる。非病原性の土壌細菌の一部は免疫系に取り込んで、ストレスを緩和する。腸内細菌叢はストレスを受けるとバランスを崩し、不安障害や鬱などの気分障害を引き起こすという。したがって土壌細菌がストレスを緩和することで、腸内細菌叢がバランスを取り戻すということになる。

 こんな風に、土壌細菌と腸内細菌とは連動している。人間とは、腸内細菌の器で土壌細菌と緩く隔てるものでしかないのかもしれない。