地表は元々、岩石だけで土はなかった。それが今では、1gの土に、6千から5万種、100億から1,000億個のバクテリア、200mもの糸状菌の菌糸が含まれるに至った。どのような経緯で土ができたのか、藤井一至「大地の五億年」を読んで学んでみた。それによると

 岩石が土に変わり始めたのは5億年前。コケや地衣類(カビと藻類の共生)が、光合成による糖分を有機酸に変えて岩を溶かし、リン、カリウム、カルシウムなどを吸収する。その残りが砂や粘土になり地衣類やコケの遺骸と混ざって最初の土になる。この営みが1億年続けられる。

 そして4億年前に、根と維管束を持つシダ類が登場する。たちまち大地を覆う。さらに巨木化し、大森林を形成する。根が放出する二酸化炭素が炭酸水となり、岩石の風化を加速させる。シダ類が倒れて堆積して、湿地帯で微生物の活性が低いところでは泥炭層が形成される。

 次に3億年前に裸子植物が誕生する。セルロースではなくリグニンを主成分とし、風雨にも害虫にも頑健で、シダ類も優位で地表を支配する。リグニンは微生物に分解されにくく、倒木や落葉はなかなか分解されず、これが熱変成を受けると石炭になった。

 ここで2億5千年前にキノコが現れる。その中の白色腐朽菌は、菌糸から酵素ペリオキシダーゼを分泌し、倒木や落葉のリグニンを分解して腐葉土に変え、セルロースや窒素を利用できるようになった。こうして樹木の有機物が分解され、再利用されるサイクルが成立する。

 2億年前には針葉樹が全盛になる。植物は根から水とともにカリウムやカルシウムなどの陽イオンを吸収し、水素イオンつまり酸を放出し、土壌は酸性化する。酸性土壌になるとアルミニウムイオンが溶け出し、植物の根の成長を阻害する。この酸性土壌に適応したのが、外生菌根菌と共生した針葉樹だった。外生菌根菌は根を包み込みながら樹木から糖分を受け取り、その一部を有機酸(クエン酸やリンゴ酸)に変え菌糸から放出して岩石に無数の穴を空けて、リンや窒素などの栄養分を樹木に与える。こうして腐葉土の堆積した土壌を生み、その酸性化を進めて他種を弱らせながら、針葉樹林が支配的になる。

 ここで1.5億年前に、ブナ、ミズナラ、クリ、シイ、ドングリといったブナ科の被子植物が東南アジアに現れる。花粉運びではハチやチョウと共生して堅果をつくり、遺伝的多様性と生存率を高める。土壌では外生菌根菌と共生し、糖分とリンや窒素などを交換する。こうして針葉樹と同様に、酸で岩石を溶かしながら酸性土壌を重ねていった。火山帯にある日本列島は酸性の火山灰土壌に厚く覆われていたが、ブナ科の樹木たちはここでも適応した。


 ということだそうだ。五億年を経て形成された土壌は生態系の要なのだが、造成工事、アスファルト舗装、建蔽によってないがしろにされがちだ。少しでも回復させたい、取り返しのつかないことになると畏れつつ思う。人間 humanの語源が、土 humusだと言うのも示唆的である。