天敵であったニホンオオカミが絶滅して、シカの増殖に歯止めがかからないと言われている。

 シカは森林の舌草などを摂食するのだが、スギの人工林が放置されて光が届かなくなって下草が減る。そうするとシカは山の上に移動して、ブナ林の下草を食い荒らし、土壌環境を損なうことでブナ林を壊してしまう。ブナの幼木を食べ尽くす。その結果、数十年前は森に覆われた山頂付近もハゲ山になっていたりする。ブナ林が損なわれると、地盤の保持力や保水力が失われ、土砂崩れや高水を招くことになる。シカが増えすぎる影響は大きい。

 対策は何が考えられるだろうか? まずはスギの人工林において間伐を実施して、シカの生息域をそこに留めることだろう。さらにハゲ山にはブナを植樹して、元の自然植生に森林を再生させる。苗木は囲うなど手間暇はかかる。あとシカの生息数を狩猟によってコントロールする、ということだろうか。こうした積み重ねで、ダムや堤防、擁壁も不要になることが望ましい。

 でも結構な人手も資金も必要だ。相場も安く、斜面地で伐採や運搬も割高感なので、スギ材は収益はとれない。薪炭の需要もない。そうすると、資金は流域治水の考え方からすれば、受益者である下流の都市部の人たちが税で負担するのが妥当である。人手については、伐倒や植樹、狩猟などを専門家や地元の人たちの指導で、市民参画で進められるのが理想的である。灌漑では一帯の農家が水利組合をつくって作業を分担・交代するが、その拡大版になるだろう。

 この仕組みをうまく埋め込めないかな。