消費にも生産性があると思う。

 同じ食費にしても対象には、糖分過多で依存症にして健康を蝕む食品もあれば、蛋白質やビタミン、ミネラルをバランスよく含んで身体を整えるような食品もある。被服費にしても、衝動買いのブランド品で一度も着ない衣料もあれば、自分の潜在的なアイデンティティを現してより好ましい社会関係をつくる衣料もあるだろう。建築関係でも、万博のリングが話題だが見た目に偏ってすぐ撤去される工作物もあれば、居心地が良くぐっすり眠れて近所付き合いも豊かでずっと生き生きできる居住空間もある。

 国民経済計算では同じように消費支出等としてカウントされるが、人の行動への影響、その成果には相当な違いがある。例えば過度のアルコール消費は、二日酔いなどで作業も滞り、糖尿病やガンも誘発して、苦痛、困窮に至らしめる。「飲みに行けば、飲食業にお金が回って経済にプラスだ」という戯言は不経済であった。そう考えると、経済同友会の会長が酒類メーカーのトップというのは暗示的である。

 またコストパフォーマンスというのも一面的とも思える。自転車で考えてみよう。ママチャリ同士で比べるときはコスパで選んでも良さそうだが、ママチャリとロードバイクとではコスパで比較はできない。自転車なのに百万円もする、と言われるが、サイクリングという楽しみを与え、走って気分もスッキリさせ、身体も引き締めるという効用は代え難いものがある。コスパより、バリュー・フォー・マネーの方がまだいい基準かもしれない。その場限りの消費という観点ではなく、よりよく生きるための長期持続的な効用が基準になる。

 生産部門では産業連関表が作られて、自動車産業は波及効果が云々と議論される。これを消費部門にも延長させて、例えばアルコールやタバコ消費による生産性低下や医療費負担など、負の波及効果を分析に組み込むのも良さそうである。政策的含意も見えてくるはず。