某代議士のアイヌ差別発言を野放しにしないように、内閣官房アイヌ総合政策室に要望したら、「個別の事案には答えられない」という回答が繰り返されたという。こうした常套句は政治家や官僚に蔓延しているが、説明責任を全面的に無視するものだ。論証してみよう。

 「個別の事案には答えられない」は、実際に発生した事案への判断を拒む。そして「仮定の話には答えられない」では、将来起こりうる事案への判断を拒む。すでにお分かりだと思うが、これら二つの常套句を用いることで、これまで・これからのすべての事案について判断や説明を拒むことになる。

 従って反論の仕方も明らかである。まずはじめに「貴局はこの問題解決の責務がありますか」と相手に説明責任があることを合意する。「個別の事案には答えられない」と回答されたら、「もしこうした事案が発生したら」と質問を重ねる。そこで「仮定の話には答えられない」と回答されたら、きっぱり「そうしたら、これまで・これからのすべての事案に答えないということで、貴局の責務に違背しませんか?」と追い質問で弁解の余地をなくす。

 そこで先方は切り札を繰り出す。レイの「回答を差し控えさせていただく」である。この常套句は政府に回答を拒む権利があるかのようで奇妙である。政府の説明責任とは、選挙で選ばれたかどうかにかかわらず、公務員が自らの決定と行動を国民に説明する義務があることを意味する。なので説明義務を負うものが、自分で説明義務の範囲を操作できるものではない。

 この常套句には情報公開法の第一条を突きつけることだ。「この法律は、国民主権の理念にのっとり、行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により、行政機関の保有する情報の一層の公開を図り、もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに、国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することを目的とする。」それでも拒めば、憲法第十七条「何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。」を示そう。不毛な記者会見で、こうした突きつけをしっかりにくりかえしてほしい。

 こんな常套句を野放しにしていてはならない。