BRICSが中心となる新しい世界秩序はどのような基本原則になるのだろうか? この4月には対立していたサウジアラビアとイランが、中国の仲介で国交を正常化しているように、すでに新しい秩序が現れ始めている。そこで2022年4月に習近平主席が提案した、グローバル安全保障イニシアティブ
を調べてみる。
- 共同、包括、協力、持続的可能な安全保障理念を堅持し、世界の平和と安全を共に堅持していく
- 各国の主権と領土保全を尊重し、他国への内政干渉をせず、各国国民が自ら選択する発展の道と社会制度を尊重する
- 国連憲章の主旨と原則を順守し、冷戦思考を放棄して一国主義に反対し、集団的政治と陣営を組んでの対決をしない
- 各国の安全保障上の合理的な関心事を重視し、安全保障の全体性の原則を堅持し、均衡、有効、持続可能な安全の枠組を構築し、他国を安全でない状態にして自国の安全保障を築き上げることに反対する
- 国家間の見解の不一致と紛争を、対話と協議を通じて平和的な方式で解決することを堅持し、危機の平和的解決に有益なあらゆる努力を支持し、ダブルスタンダードは行わず、一方的な制裁とロングアーム(自国の法令などを自国領域外にも適用すること)の乱用に反対する
- 従来型の分野と新たな分野の安全保障を統一して維持することを堅持し、地域の紛争やテロリズム、気候変動、サイバーセキュリティー、生物安全など全世界に及ぶ課題に共同で対応する
アメリカの一国行動主義に対抗し、各国の主権を尊重する姿勢は明らかである。これまでアメリカの政権転覆工作や武力行使、収奪体制に苦しんできた中東やラテンアメリカの国々にとっては、対抗力を備えることになる。安全保障が目的で、人権や自由、民主制といった理念には触れておらず、いま独裁体制の国家にも受け入れやすい。例えばサハラ以南のフランスに収奪された国々も、フランスの干渉を拒んでBRICSとの経済関係を深めた成長を選ぶこともできる。核廃絶も、持続可能な安全保障の原則からすると、全体の均衡をとりながら推進していく方針が浮かび上がる。地球温暖化対策で南北対立が表面しているが、こうしたときも共同歩調をとることができる。
これらの原則は中国自身の外交政策にも反映される。アメリカが台湾問題を挑発しているが、中国にとっては内政干渉であり、対話と協議を通じて平和的に解決する姿勢を貫くだろう。中国にとっては、武力行使でこのグローバル安全保障イニシアチブへの信頼を失いたくはない。サウジアラビアとイラン国交正常化に続き、ウクライナ紛争の解決に携わることで、このイニシアチブの意義を証明したいはずである。
もっとも、このイニシアチブは国家安全保障に関するもので、人間の安全保障を第一にするものではない。構造的暴力がもたらす貧困、飢餓、病苦、無学、拘束、隷属といった問題を、このイニシアチブでは扱ってはいない。3番では国連憲章に言及しているが、この憲章に「人種、性、言語又は宗教による差別なくすべての者のために人権及び基本的自由を尊重するように助長奨励することについて、国際協力を達成すること」とあるので、将来に取り組むことになるのだろうか?
グローバル安全保障イニシアチブの今後に注目したい。