ペトレンコ指揮、ベルリン・フィル演奏の第九は、リズムとディナミークを主に音楽が構成されていることを鮮やかに示してくれる。合間の弦と管とのパッセージの繊細な受け渡しも美しい。以前のバッハ、モーツァルト、ハイドンも、以後のシューベルト、メンデレスゾーン、シューマンらもこうした音楽ではなく、後年の春の祭典まで書かれなかった独創性に驚く。

 でも聴いていくうちに、これはアフリカ音楽に通じるような気がしてきた。聴きやすいとは言えないが、独自のリズム音形をコントラバスやティンパニがビートをキープする。これに弦楽器や管楽器が厚みと音色を加える。ソロがリフを展開して受け渡す。最後はゴスペルのように合唱でまとめる。ピグミーのポリリズム、マイルスがアガルタで、ジャック・ジョンソンのテーマを展開したのにも通じる。

 ベートーヴェンが活躍した時代、ヨーロッパにも黒人奴隷が連行されて、労役や家事に従事していたそうだ。日本人奴隷もいたという記録がある。思いつきだが、街角でこうした人々が集まり、故郷の音楽を奏でていて、ベートーヴェンもその音楽を耳にしたのかもしれない。あるいはベートーヴェン自身もそのメンバーだったのかもしれない。音楽のグローバルヒストリーかな。