今日はプレトニョフの演奏会、スクリャービンとショパンの前奏曲集だが、解釈の革新に心を揺さぶられた。

 スクリャービンは録音があるので、聴き込んでいたが、演奏は空間性豊かで別物だった。24の調性それぞれの情念が、神秘的な和声進行とポリリズムによって蠢くような音響が空間に浮かび上がる。最弱音の透明な響きが身体に滲み込み、強奏のクラスターが身体を浮遊させる。幽玄の詩的な世界である。こんなに素晴らしい音楽だったとは。

 ショパンもまるで別の音楽だった。通常は、旋律主体でタメをきかせて歌う、という演奏なのだが、プレトニョフは多層のリズム構造を持続させ、様々な音色を駆使してポリフォニックに展開していた。内声部の綾がくっきりと立上がり、その妙味にハッとさせられる。ピアノ一台でオーケストラを響かせている。サロン風ミュージックとは対極の、豊かな音組織が展開されて複雑に変容する情感に包み込まれる。ショパンの音楽の本質がはじめて聴こえた気がした。

 こうした創造的な解釈が、途方もない技巧によって現実になる。ものの見方や考え方も一面的ではなくて、多層で多面的にすることではじめて深い意味が分かるものだ。ロシアの音楽家による一晩の演奏で、なんか世界観が変わるぐらいの印象だった。聴けて良かった。