キャッチアップ型の経済の先には、イノベーション主導の経済があったはずだった。「創造的破壊の力」によれば、この転換を促すには

  • 基礎研究の充実。研究組織には、テーマは研究者の自由、長期で十分な予算、内外の研究者とアイデアをやりとりできる開放性が求められる。成果は不確実で企業は投資しづらいが、正の外部性があるので公的な支援が重要である
  • 新興企業の支援。有望分野や事業モデルは起業家に委ねるしかない。ベンチャーキャピタルなどの適切な時期の適切な支援である。ベンチャーで成功して資金を得た層が、ベンチャーキャピタリストになればその試行錯誤の経験を投資先に生かすことが出来るだろう
  • 既得権益の排除。イノベーターにとって参入障壁が小さく、既得権益層に対して独占禁止規制が有効であり、既成企業の市場地位を守るための規制や入札、税・補助金優遇などが講じられないことが必要である
  • スキル転換。創造的破壊は、後に代替効果と所得効果によって社会全体を潤す。しかし当初は代替される労働者の職を奪うことになる。こうした人たちが再就職できるように、新たな産業構造に必要な新たなスキルを習得できるプログラムが不可欠である

といった政策群が必要である。

 しかしここ数十年の日本は、これらのすべてに逆行した。

  • ガバナンス強化を名目に大学の自治を奪い、研究予算を縮小しつつ応用研究に重点を置いて、企業と守秘義務にある共同研究を促す
  • 政府が将来の産業分野を選択し、半導体、ジェット旅客機開発など政府自らが乗り出して失敗を重ねる。ベンチャーキャピタルは銀行系が多く、アイデアの将来性を評価する力、ベンチャー経営者の立場で問題解決する能力を体得する経験は必ずしも十分ではなかった
  • 既得権益層を守るように、許認可の対象は増大し、入札条件などは過去の実績や陣容を求め、税や補助金も優遇された
  • 金融緩和政策で陳腐化した企業も生きながらえ、解雇4要件で何もしない正社員も保護される。その一方でスキル転換はおざなりだった
わざとじゃないかと思うぐらい、政策が拙い。イノベーション型経済に転換するどころか、キャッチアップもだんだん難しくなってしまった。シンガポールや韓国、中国は、イノベーション主導型の政策で成果を上げ始めているのと対照的である。やるべきことは明らかなのに。