コミュニティの中で相互扶助が成り立つ条件は何だろうか? 相互扶助の精神として、「一人は万人のために、万人は一人のために」が行き渡っていることだろうか?

 近年の私的不完全観測下におけるゲーム理論では、その条件はレビュー戦略に従うことが示されている。相手が相互扶助に応じるかとうか、を過去のシグナルを記憶してより確度の高い相手を選ぶ、というものだ。そのポイントは

  • 相手と協力しても罰しても、自分の損得は変わらない
  • 自分の得たシグナルが「相手を罰するべき」であれば罰し、「協力すべき」であれば協力する

というものである。

 この条件を、実際に東京管理職ユニオンで調べたところ、この入退会が頻繁で情報共有も不十分な組織でも、争議が持ち上がるとメンバーにメールが渡り、一定数のメンバーが抗議活動や裁判傍聴などに労力を割くことで互恵関係が生じることが分かった。その行動原則は、しっぺ返し戦略や評判のメカニズムではなく、上記のポイントに準じたものだった。つまり、どの争議行為に行っても同じ確率で将来助けてくれる人と会えることで、自分が持っている情報に基づいて過去に出会った人を助ける、という行動規範である。

 こうした行動規範が世代を重複して、互恵関係が続く。手間暇かけて監視や罰則の仕組みをつくったり、互恵精神の徹底に労力を割いたり、は不要で、「助けた履歴のある人が助けられる」ということで相互扶助の組織が長続きする。これならあちこちで埋め込めそうではないだろうか?