あるグラフについて、辺の除去、辺の縮約、孤立点の除去という3つの操作を繰り返して得られるグラフをマイナーと呼ぶ。ワグナーの定理は、グラフが平面的、つまり平面上で辺が交差しないための必要十分条件は、K5とK3,3のどちらもマイナーとして含まないことを示す。

 この定理は、例えば脳神経系において、K5ないしK3,3を含む回路だと大脳皮質に平面グラフとして埋め込めない、といった知見を与えてくれる。そうすると、K3,3のようなマッチング機能やK5といった完全な相互リンク機能は、三次元の機構を必要とすることが分かる。二次元的思考と三次元的思考の根本の違いは、マッチングと相互リンクの有無なのか。

 都市や建築の空間モデルとしても面白い。5つ以上の場所をお互いに直接につなぐ経路は、必ず交差する。鉄道なら立体交差、道路なら交差点が必要になる。広場なら端に5か所以上の居場所を設ければ、それらを移動するときに出会いや賑わいが生まれやすい。スタジアムやキャンパス計画など、分棟構成でそれぞれ三か所以上の出入り口を設け、多くの人が一時に相互にどこでも行き来できるようにすると、どうしても混雑箇所ができる。高速道路の料金所入口のゲートとその後の走行車線が三つづつ以上だと、我先にと車線を変更していると衝突しやすい、ということにもなろう。

 それにしても対象を、頂点と辺のグラフで覆い、それが平面か非平面か、を判定するのに、マイナーとしてK5ないしK3,3を含むかどうか、で分かるというのはなかなか意義深い。