都市経済学によると、都市集積の要因は、シェアリング、マッチング、ラーニングの三つにまとめられている。人が集まるから、劇場や美術館などがシェアできる。いろいろな人が集まるから、就職でも婚姻でも相手がみつかる。人と一緒にノウハウも集まるので、学んでスキルを上げられる。そんな説明である。
もっともだとも思うけれど、なんで三つなの、他にもないの、とか、より単純なメカニズムで説明できないのか、というが浮かぶ。単純なメカニズムで説明できれば、都市集積についてもっと意味深いことも導けるかもしれない。
そこで思いついたのが、人と人との情報のやりとりを基本単位において、その総体を都市として考える方法だ。複雑ネットワークに置き換えることでさまざまな分析も可能になる。モデルは簡単で
- BさんがAさんと知り合い、BさんはAさんから有益な情報を得る。AさんもBさんから別の有益な情報を得ることもある。
- Cさんも有益な情報を得ようと、都市の人々と知り合いになろうとする。ランダムにマネする人を見つける。
- 仮にそれがBさんなら確率pでそのマネをして、Aさんと知り合いになる。このときAさんの有益な情報と、Aさん経由でBさんの有益な情報を得る
- 確率(1-p)でマネをせず、ランダムに結びつく。
- この知り合いのネットワークに、Cさん以降も次々と同じ要領(ランダムにマネする人を選び、確率pで知り合う相手をマネする)で知り合う先を選ぶ
こうして頂点コピーモデルによってスケールフリーネットワークが出来上がる。ノードが市民、リンクが情報である。このネットワークの特徴として
- 都市人口がある臨界値を超えると、分散していたネットワークが、一気にお互いに結びつく巨大なネットワークに相転移する。したがって都市規模が臨界値を超えると、お互いの情報がすべて共有されるので、ラーニングの効用もいっぺんに高まる
- 知り合いの著しく多い少数の人たちが、ネットワーク全体を結びつける。このため、この少数の人の情報(知り合いの情報も含む)を、その多くの知り合いが共有することができる。これがシェアリングである。
- 都市人口が増えても、ランダムに選んだ二人が結びつくために間にいる人の数はあまり増えない(都市人口の対数に比例)。ある人が有益な情報を知り合いから得るが、その元の情報はその知り合いの知り合いから…という風に遡ってもせいぜい4-5人位で行きつくのだ。これがマッチングのしやすさになる。
とこんな要領で、簡単な原理から都市集積とその魅力の素を導くことができるかもしれない。