コミュニティと市場とはどのように両立させれるのだろうか?

 コミュニティでは相互扶助が行われる。これはお互いに子どもを預かる、といった行為について対称律と推移律が成り立つことで、そのネットワークが広がる。ただしお互いに信用のおける範囲になるので、ダンパー数150人という位の上限はある。コモンズを維持・発展させるルールについても、サンヘラの灌漑管理のように、この対称律と推移律を踏まえて構成される。ルールのあり方などは、熟議によってそうでなければ暗黙であったような前提と論理が明示され、誰もが同じ帰結が得られることで決定される。宮本常一「対馬にて」にもみられる。熟議は直接民主制が想定されるが、乱択代表制でも代替しうる。

 市場はコミュニティと対照的な原理で働く。分業やイノベーションに見られるように、競合優位性ないし差別化が大事だ。対称律とは反対である。また人々の選好とその度合いもそれぞれである。供給側も需要側もそれぞれだからこそ、価格メカニズムを介して、両者が自己利益を追求して交換が公正な競争の下に成り立つ。市場均衡の存在は凸集合と集合値関数から証明される。コミュニティでは人格の認知が必要だが、市場では匿名でも機能する。

 人々には、さまざまなコミュニティの間を移動し、居住地を選択する自由が与えられるとする。コミュニティごとに、コモンズの受益と負担は異なり、また熟議を通じて明らかになった前提ないしは価値観も異なるが、人々は自分の選好に応じて属するコミュニティを選ぶ。ティブー仮説の通り、コミュニティの人気に応じて、そこの地代がは上下する。このような足による投票を通じて、コモンズの供給は最適化され、また人々の実質的な生活水準もコミュニティ間で同等になる。このようにコミュニティ自体があたかも市場メカニズムを通じて、選択されていく。

 人々はこうして自分の気に入ったコミュニティで、相互扶助やコモンズで生活をより豊かにしていく。それと同時に、コミュニティを超えた、よくあるのはその狭間にある市場で、商品を売り買いすることができる。人々はコミュニティではその対称性と推移性の価値観、市場ではまた別の自己利益と差別化の価値観で、と双方を場に応じて使い分けることで両立させている。