高橋幸宏の遺産 | ほうしの部屋

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 晩年の高橋幸宏が結成したMETAFIVEは、音楽史上に名を残すバンドと言えます。そもそもは高橋幸宏が新作を作る際に、セッションミュージシャンとして手練れの人々が集められたのですが、限定ライブなどを経て、その音楽性と演奏力が絶賛され、高橋幸宏を中心としたバンドとして活動してきました。最初は「高橋幸宏&METAFIVE」という名称でしたが、高橋幸宏が他のメンバーに飲み込まれる形で、「METAFIVE」という名称になりました(METASIXにならずに)。高橋幸宏[ドラムス、ボーカル、シンセ、プログラミング]以外の5人のメンバーは、小山田圭吾[ギター、コーラス]、砂原良徳[シンセ、プログラミング、コーラス]、TOWA TEI(テイ・トウワ)[シンセ、ノイズ、プログラミング]、ゴンドウトモヒコ[金管楽器、シンセ、プログラミング、コーラス]、LEO今井[ボーカル、ギター、シンセ]です。2016年にファーストアルバムをリリースし、その後、不定期的にライブ活動を行いました。そして、ライブチケット購入者への特典として配られたアルバムも大評判となり、2022年に、それがライブ・ブルーレイとセットで発売されました。

 高橋幸宏亡き後、METAFIVEがどうなるかはわかりません。各メンバーが各々のプロジェクトも持っているので、5人が(真のMETAFIVEとして)集まるかどうかわかりません。そもそも高橋幸宏の求心力ゆえに集まっていたメンバーという感じもあるので、伝説を残して、消えていくバンドになるかもしれません。2022年に発売された『METAATEM』というライブ・ブルーレイとセットのアルバムには「ラストアルバム」と記されているので、高橋幸宏亡き後、このバンドが活動することはないのかもしれません。

 METAFIVEの音楽は、簡単にジャンル分けできるものではありませんが、どことなく、YMOの雰囲気を持っています。細野、坂本、高橋の3人のYMO以外の人でYMOをやって新曲を作ったら、こうなるのではないかという雰囲気があります(METAFIVEには高橋がいますが)。もともと、高橋幸宏主催のライブでYMOの完全コピー演奏をするために集められたメンバーだそうです。また、METAFIVE自身もライブのアンコールでYMOの「CUE」を演奏しています。METAFIVEの音楽には、YMOの『BGM』『テクノデリック』『テクノドン』あたりに似たテイストがあります。小山田圭吾、ゴンドウトモヒコなど、再結成したYMOのライブでサポートを務めたミュージシャンや、何らかの形でYMOのメンバーの活動に関わったミュージシャンばかりがMETAFIVEのメンバーなので、当然、YMOのサウンドの影響を受けていると言えます。

 しかし、METAFIVEを、単なるYMO追随バンドにしていない、個性を強く与えているのは、小山田圭吾のギターだと思います。打ち込みのベーシックトラックに対して、YMOとは異なるグルーブ感を作り出し、テクノポップというよりもニューウエイブのテイストを醸し出しているのも、小山田のギターの存在ゆえだと思われます。テクノ風の編成とアレンジなのに、chic(シック)やスライ&ファミリーストーンのようなファンキーなグルーブのドライブ感のあるリフレインが形成されています。LEO今井のボーカルも、高橋幸宏単独で歌うのと異なり、(YMOにはない)METAFIVE独自のパワフルでファンキーな雰囲気を出しています。大友克洋のマンガあたりのBGMにもふさわしい、近未来のディストピアを感じさせます。何しろ、このバンドは、小山田圭吾が音楽を担当していたアニメ『攻殻機動隊』に高橋幸宏が曲を提供するために集められたメンバーが発端ですから。