ほうしの部屋

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 友人の古代史研究家 仲島岳の新著『ヤマト王権誕生の真実』を読了しました。著者の古代史研究書の3冊目です。

 

 弥生時代から古墳時代に至る日本史上謎の多い「空白の時代」に、日本はどのように形作られていったのかを検証する内容です。日本書紀に書かれているウソ(捏造)を暴き、日本の皇室が万世一系でも何でもないことを実証して見せています。民間の研究者による石渡学説を下敷きにして、日本の皇室の成立過程における日本書紀の虚妄を暴き出しています。

 

 端的に言えば、日本の皇統譜(天皇の系譜)には、朝鮮半島から渡来した有力者が混じっており、その血統が残っているというのが、本書の主張です。同時に、古墳時代に、内乱の続いた朝鮮半島から日本列島へ、おびただしい数の移民が流入した結果、人口が急激に増えたと分析しています。これは、最新のDNA分析でも明らかで、現在の日本人の7割以上が、朝鮮半島(東アジア)出身のDNAを保持しているのです。このようなDNAの偏りは、古墳時代に急激に発生しています。大量の移民に支持されて、朝鮮半島の王朝から渡来した王が、天皇になり、皇統譜に朝鮮系の血筋が入ることになりました。崇神天皇や応神天皇は典型的な移民天皇なのです。崇神天皇の実体は、朝鮮半島の一国家の王、首露王であり、応神天皇の実体は、朝鮮半島の王族である、昆支です。

 このような渡来王朝説は、学界の中心的な「ヤマト中心史観」からは長らく無視されてきました。しかし、近年になり、土器や刀剣、銅鏡などの発掘、DNA分析などを経て、渡来王朝説はもはや確実な裏付けを得つつあると言えます。

 渡来王朝説を裏付けるために、中国古代の歴史書、朝鮮の歴史書などを参照しつつ、日本書紀に書かれている捏造された史実を暴くために、涙ぐましい分析を続けていきます。DNA分析のような最新の科学的知見も紹介しています。

 

 本書の目次立てを紹介しておきます。

 

●目次●

はじめに――テーマは「渡来王朝説の現在地」

 

序章 「古墳時代の大量渡来」という新事実

――古代史のモデルが変わる!

石渡史学=〝応神天皇史観〟 

ジャーナリズムと学界の「反応と変化」――石渡史学の波及と副産物

「ヤマト中心主義」か、隣接科学の出してきた「答え」か

「混血説」の再評価へ

「東アジア世界」の仲間として――歴史へのアプローチは「イデオロギー」抜きで

 

第1章 渡来のリアリズム

――DNA解析が明かす「大量渡来民」史観に見合った政治状況を考える

天皇そして日本人は「朝鮮半島にルーツがある」のか?――保守派知識人のある発言

ヤマト王権の誕生〝9パターン〟 ――「ポスト邪馬台国」像の描出が歴史家の真骨頂

大量渡来民「なし」では列島日本人の人口が足りない!?

「東アジア」系の成分を持つ人びと――「古墳人=現代人」の衝撃!

渡来説の復権――「弥生‐古墳移行期」というニュー概念

弁辰狗邪国と倭――3世紀の半島南部、消失したクニとは?

三韓時代――王としての「臣智」と「辰王」統治システム

246年争乱――二郡vs.韓軍から半島勢力の再編へ

「受け皿」弁辰狗邪国――盟主国「狗邪韓国」として新生へ

金海周辺を治めた王たちの系譜――大成洞古墳群集団の支配層

首露王の起源をたどる――「金氏の起源」としてのある「邑君」

弁辰狗邪国から狗邪韓国、そして意富加羅国へ――4世紀前葉に起こった完全独立への道 

 

第2章 「任那」の誕生と列島への進出・移遷

――「渡来王」崇神によるヤマト王権の成立へ 

[年表]国名(国号)の変遷と極東アジア史 

意富加羅国の「列島進出」決断――首露の祖父・父世代の「連合王国」構想から 

政治集団移動の神話・伝承――首露王のモデル人物、337年の渡来 

「任那加羅王」の誕生――加羅からついに「ミマナ」加羅へ 

「旨」=ミマキとしての来倭と治世――ヤマト王権の樹立は350年代か

覇王の横顔――「首露王=崇神天皇=倭王旨」説の秘密 

逆転劇――百済の急成長と「侯国」の倭

「ナラ」の系譜――任那加羅から金官という「(ス)ナラの国」へ 

「短甲」と思いがけぬ「ムル」の意味――加耶ならではの武具が倭で花開く 

太陽神「アマテル」は外来神――〝タカミムスヒ革命〟で変わったこと 

北東アジア系の王権イデオロギーが来た道――半島→対馬→列島・ヤマト 

「海を光らせて来る神」の正体――「神代」の謎が崇神紀で解ける① 

天皇霊としての「日神=大物主神」――「神代」の謎が崇神紀で解ける② 

 馬具と土器の真実①――箸墓3世紀説は無理筋の極み 

馬具と土器の真実②――加耶土器による列島土器へのインパクト

ポスト崇神(ポスト首露)の時代へ――倭国のその後と(南)加羅の消長

半島新技術と三輪「後期」王朝による開拓――ヤマトから「河内」へ

「政治集団の移動」説がこうして復権した――「4世紀の渡来王朝説」しか勝てぬ理由

 

第3章 応神の「新」王権と後継天皇たちの興亡

――昆支と男弟王、そして二つのクーデター 

崇神大王家への婿入りは定番理論に――「済=ホムダマワカ」の補助線で見える「武=応神」

「将軍」号を持つ男――左賢王・コンキの来倭

「ホムタ」――君の名は…「神となれり」

青春の日々がない天皇――神功皇后が応神の皇太子時代を……

(済=)ホムダマワカの「分身」たち――崇神宗家の血脈で見えてくる応神の「後継者」

応神紀「干支三運引き上げ」で生じた空白――後継大王の十人(仁徳~武烈)は不在

隅田八幡鏡と「応神と継体」――突如、日本史に登場する〝昆支〟のプレゼンス 

『書紀』改作プロセスに見える「応神=神武」――〝幻の皇統譜〟があった痕跡

後継者・継体天皇の正体――冠軍将軍のその後の消息

誤算――6世紀前半のクーデター;辛亥の変

二つの王統――「継体・敏達系」対「欽明・用明系」

継体・欽明の半島政策が不可解な理由――〝百済優遇・任那熱・高霊冷遇〟

聖徳太子不在説①――学界が取り上げきれない「細部」情報

聖徳太子不在説②――糸口は「馬子の妻」

聖徳太子不在説③――推古・用明が「でっち上げ」だという理由

「蘇我物部戦争」による本当の敗者とは?――敏達の死後、「プリンス」の悲劇

霊(血)と抗争――『日本書紀』が捏造した記事の「意味」

 

あとがき――「誉田八幡」応神の系譜と「ヤマト/日本」の誕生

 

 全体が、日本書紀に対するテクストクリティークとして書かれていることが、前作、前々作よりも鮮明になっているのが良いと思います。ただし、先人の意見と自分自身の意見は、明確に区別したほうが良いと思います。例えば「石渡はこう述べている~、そして私は~のように考える。その根拠は~」という具合に書いていくのです。

 バランスについてですが、前作同様、相変わらず、2世紀~4世紀前後の朝鮮半島の勢力分布や権力移行に関する記述が、長すぎる感じがします。ただでさえ読みにくい韓語表記の国名や人名が多数出てくる上に、その歴史的変遷が長々と書かれていて食傷します。朝鮮半島南部に倭(現在の日本の原点)が出現するまでは、もっと簡潔にまとめても(省略しても)良いように思います。もっとも、日本では弥生時代で、日本書紀では神話の時代とされている頃、すでに、中国では、朝鮮半島や日本に関する史書が書かれていたという事実は、日本書紀の後発性を物語るものではあります。日本書紀の捏造された年代表記を、中国や朝鮮の文献に出てくる年代から分析していくという手法のこともあり、半島史は欠かせないものだということは理解できます。しかし、あれだけ長大な半島史を読まされると、正直、疲れます。早く、崇神天皇の正体を明かすところに行きつきたいものです。応神天皇=昆支(朝鮮半島国家の王)のくだりは、前作でも出てくるので、分量バランスはこれぐらいで良いと思います。

 終盤になって、突然、時代がくだり、聖徳太子不在説、蘇我馬子天皇説などが出てくるので、戸惑います。しかし、ここは面白い。多くの読者が、このような時代の出来事や登場人物について読みたいのではないでしょうか。朝鮮半島史をもっと圧縮して、蘇我氏関連など飛鳥時代前後の記述に1章設けても良いような気がします。しかし、この辺は、石渡学説からの引用が多くなりすぎるといった理由で、遠慮したのかもしれません。とはいえ、日本書紀誕生とも重なる、この時期の史実に関する分析や記述は、本書の題名からしても、もっと重視して紙数を割いても良いように思います。

 あと、DNA分析については、もっと書いても良いと思います。科学的裏付けの最も重要なポイントですから。移民に関する恣意的な人口計算を、前作よりも控えめにしているところは、好感が持てます。

 

 全体として、日本書紀というテクストに対する批評性が非常に打ち出されている点が、好感が持てました。そこが面白かったです。記紀編纂者(執筆者)の権力に忖度した捏造行為、それに対する後ろめたさ、そこから来る、ひっそりとしのばせた真実へのヒントなどなど、テクストを生み出す者の苦悩がしのばれます。そういう部分にも目を向けているのは素晴らしいと思います。

 

 前作や過去の学説からの相続も多かったですが、全体としては、スリリングに面白く読み進められました。