※このシリーズは、過去に僕たち夫婦が取り組んでいた妊活・不妊治療を、時間が経った今、振り返って書いている記録です。
シリンジ法を取り入れることにした理由
妊活を始めてしばらく経った頃、僕たちは「シリンジ法」を取り入れることにしました。
シリンジというのは、小さな注射器のような器具で、採取した精液を女性の膣内に注入する方法です。病院での人工授精よりも手軽に、自宅で行えるのが特徴です。
うちの場合、私(スミ)の方に性交痛があったこともあって、「どうしたらお互いに痛みなくできるか」ということを考えました。
性行為自体に心身の負担がある状況で、「回数勝負」は正直きつい。
だったらシリンジ法を使えば、少なくとも物理的な痛みは避けられるし、ふたりにとって少しは気持ち的にも楽かもしれない——そんな話し合いをして、この方法にチャレンジすることにしました。
想像以上に“心”にくる作業
でも、実際にやってみると、思っていたより精神的な負担は大きかったです。
まず、採精そのものがプレッシャー。しかも、採ったらすぐ注入しないと意味がないし、使い方も気をつけなきゃいけない。
うまくいったのかどうかも分からないまま、「これで大丈夫かな?」と不安を抱えながら終わる日もありました。
作業中にふと、「今、自分は何してるんだろう」と思うこともあって。
まるで何かの実験みたいで、そこに“営み”としての温かさは、正直あまり感じられなかったのが本音です。
気持ちだけは、確かに重なっていた
それでも続けていたのは、「子どもが欲しい」という気持ちだけは、ふたりの中で変わらずあったから。
ぎこちなくても、やり方が分からなくても、お互い声をかけ合いながら、なんとか続けていく——そんな雰囲気でした。
今振り返れば、あの頃は本当に余裕がなかった
ただ、今思い返すと、この時期の夫婦関係は決して穏やかではなかったです。
「頑張ってる」のはお互いわかってる。でも結果が出ないと、どちらかが責められているような空気になったり、無言のプレッシャーを感じたり。
ちょっとした言葉で傷ついて、言い返せなくて、静かにすれ違っていく。そんな瞬間がいくつもありました。
「仲が悪かった」とまで言うのは違うかもしれないけど、「心に余裕がなかった」というのが、今の僕の実感です。
がんばりすぎなくていい——でも、がんばるしかなかった
それでもあのとき、やめようとは思わなかった。
「もう少しだけ頑張ってみよう」と自然に思えたのは、やっぱり「子どもが欲しい」だけじゃなく、「ふたりで乗り越えたい」という気持ちがあったからだと思います。
今、あの頃の自分たちに声をかけるなら、「がんばりすぎなくていいよ」と言いたい気持ちもあるけれど、でもたしかに——
あのときは、がんばらないと進めなかった時期でもあったんです。
そんな時間を、僕たちは確かにふたりで通り抜けてきました。