シモキタと云えば下北沢? いやいやいや、下北半島でしょ!(林修先生の口調でお願いしますね)

RIMG0209 最果て感たっぷり。


昨日のてんこ盛りが応えて、早起きがとてつもなく辛いうえに、めちゃくちゃ体がだるい朝6時。でも、陸奥湊の朝市で朝ごはんを食べるには、今起きなければなりません。
そこまでしなくてもいいのに、と文句を垂れるもう一人のわたしの頭を押さえつけて、急いで荷物をまとめてチェックアウトしたのが7時すぎ。
そうまでしてたどり着いたのに、いざ市場に来ると、どうも体調が今いちで食欲がわいてこないという悲しさ…。
食堂では、白飯やせんべい汁(八戸名物)を格安で販売しており、それをベースにして、各々好きな海鮮や惣菜を買っておかずにするというシステムになっているようです。
昨夜、いちご煮汁を食して「もっとウニが食べたかった」思ったことから、脳みそのように固められたウニを1つ買いました。ウニ丼でしゃれこもうというわけです。

RIMG0170 こういうのを各自で買います。


食堂は盛況で、人が入れ替わり立ち代りで、空席を見つけるのもひと苦労ですが、二人組の女性の隣がぽかっと空いていたのでそこに座りました。
しばらくして、わたしの前の空席に、30代前半くらいのカメラ女子がやって来て、一眼レフでバシバシ写真を撮り始めました。タウン誌の取材かと思いましたが、その後間もなく、ひとり旅の女性だということが分かりました。
隣の二人組女子がその撮影っぷりに(?)好奇心をそそられたのか、カメラ女子に「どちらからいらしたんですか?」と声をかけました。カメラ女子(以下、カメ子)は、東京です、と答え、ええ~ひとり旅なんですかあカッコいいですね~と目を輝かせる女子二人。
わたしは――いちおうひとり旅中の女性であるわたしは、完全に透明人間と化して、その和気あいあいとした会話を耳に入れながら、黙々とウニ丼をかき込みました。
女子ひとり旅がもしカッコいいものだとするならば、お隣の女子二人にとって、わたしはいったい何者に映ったのか? いや、そもそも視界には入っていないのか?
何やら釈然としないものを感じるわたしをよそに、 「たくさん頼みすぎちゃったんで、よかったら食べてください☆」と、憧れの先輩に手作りのクッキーでも渡しているかのようなテンションの高さを以て女子二人はカメ子に絡み続け、カメ子も「猫の写真を撮りたいんですけど、この辺でたくさん撮れそうな場所って知りませんか?」と、もう予想をまるで裏切らない素敵女子っぷりを発揮(←完全なる偏見)。
ただでさえウニの量に参っているところに、本来ならまったく必要のない疎外感まで感じてしまうなんて、我ながらなんてし ょ う も な い……!!
「今日はいいことあるわよ」って、さっき、ホテルのおばさんに送り出されたところなのに、こんなことで簡単につまづく自分の心が恨めしい。。。
そうそう、昨日の一室は、本当に奇跡的に、当日の昼頃キャンセルが出たものだったのです。10人の団体だったのが急きょ9人になったというので偶然空いたらしい。そこで運を使い果たしていてもおかしくないような命拾いだったわけです。



まあしかし、旅のいいところは、移動することで強制的にチャンネルが切り替わる点。再び陸奥湊駅に返し、電車に乗り込んで、一路、下北半島を目指すうちに、車窓の風景とともに己の心情も刻々と移り変わっていきます。
陸奥湊→八戸→野辺地と乗り継いで、そこから下北へ。乗り換えの空き時間が長いので、少し野辺地駅の周辺を歩いてみました。曇天も相まって、半端ないうら寂しさが漂っているのですが、思えば、これを味わいたくてわざわざこんな遠くまで来ているのだとも云えます。
雨の交じる車窓風景は、いつぞやのダンジェネスへ向かう鉄道のそれにも似て、寂しさとともに、奇妙な明るさを感じさせます。それは、“果て”に向かう道に共通した、乾いた明るさです。

RIMG0184 「青い森鉄道」のキャラ・モーリーがかわいい~☆ 青森→青い森で、別にひねってあるわけじゃないけど、ファンタジックでいいよね。


下北駅からはバスに乗って恐山へ。途中、「恐山冷水」というバス停に停車して、水を汲むことができます。若返りの水と呼ばれているそうですが、それもうなずけるほどに、めちゃくちゃ美味しい! そこらのミネラルウォーターなど比べ物にならない芳醇な味! ああ、ペットボトルを持ってくればよかった…。
山道を抜けると、視界がぱーっと開けて宇曽利山湖が現れ、ほどなく三途の川とそれに架かる赤い橋が見えてくると、ほどなくしてバスは終点の恐山にたどり着きます。
バスを降りて歩き、山門に差しかかる頃には雨が強くなってきました。ああ、昨日あんな目にあったけど、ビニール傘を買っておいてよかった…と、ドヤ顔で差したその瞬間、強風に煽られて傘はあっけなく折れました。。。
「………」(主に泣いてます)
どうせなら怪奇現象で折れて欲しかったです。壊れた傘を差して雨の中を観光するのは、どうにも気が散ってしょうがないです(苦笑)。

RIMG0224 恐山のおいしい水。


RIMG0231 山門をくぐったところ。


本堂にお参りしたあと、いよいよ恐山の核心とも云うべき岩山の一帯に足を踏み入れます。
怪我しそうなほどゴツゴツした岩肌を縫うように歩いていくと、そこら中に築かれた小石の山があり、その上に小さな仏像やお札がそっと添え置かれています。起伏の上に建てられる小さな仏像や、色のない荒涼とした風景の中でカラカラと回る原色の風車は、恐山に来ているのだという感慨を起こさせますが、天候は悪くてもゴールデンウィーク、観光客はそれなりにいて、想像していたような異界の雰囲気はやや薄い。もともと霊的なことに縁がないせいもあって、どうしても観光気分の方が優ってしまいます。ドコモの電波も入っているから、ツイッターでつぶやけちゃったりするし!(いや、電波が入るのはありがたいことです) 青森出身の友人が、「絶対に、人気のない時期に行った方がいいよ!」と力説していたっけな…。あの世と云うよりは、やや趣向の変わった墓地に紛れ込んだような感じです。
それでも、曇天の下、極楽浜の向こうに広がる宇曽利山湖は、確かに“彼岸”の眺めだと思えました。たった一機だけ浜辺の小山に刺さった風車は、違う時空の中で回っているように見え、波打ち際はまるで音が消えてしまったような静けさをたたえています。わたしは、母親の霊がいたら面白いなと思いましたが、その息吹を感じることはなく、またこの時期はイタコさんもいないので、そういう体験はできませんでした。
敷地内には“○○地獄”と名の付く地獄がいくつもありますが、まあこれは、登別温泉的なアレという感じでそんなに怖さはなく、どぎつい色をしたプラスチックの風車こそ、恐山の魂(ルビはウルトラソウルでお願いします)を象徴しているように思えます。荒涼とした自然そのものよりも、そこにかすかに人の手が加わった気配に、わたしの心は反応しやすいようです。

RIMG0048 風車は鮮やかな墓標にも似て。


RIMG0092 湧き出る硫黄。


RIMG0068 恐山の定番風景。


どうせなら宿坊に泊まって、より“素”の恐山を体験するのはどうだろう…という誘惑に駆られつつも、心はもう1つのプランへと傾き、バスで下北駅へ戻りました。
駅前の観光センターにてアクセスを尋ねると、思った以上にアクセスが悪く、かつ遠いことが分かり、わたしはまた、駅の待合室で思案に暮れる無駄な時間を過ごすことに…。
行き先は、〝恐山の奥ノ院″とも云われている仏ヶ浦という奇岩地帯。しかし、金毘羅の奥ノ院のように、恐山のついでに行けるような距離ではありません。明日の朝に出発して半日もあれば充分でしょ、という当初の考えは甘すぎたようで、こんなことならやっぱり宿坊に泊まった方がよかったのかと、しばし悶々。。。
ただ、今日の最終バスで、仏ヶ浦への船が出る佐井村に行くことはできるのです。明日は、青森県立美術館に寄ってから夕方には弘前に入る予定…だけど、県美か仏ヶ浦、どちらかを選ばないと厳しいスケジュールだなこりゃ…。
と、とりあえず、佐井村に泊まれるのかどうか? それをチェックしてから決めよう。もし、宿が空いているなら、仏ヶ浦に行けという神の思し召し。空いていなければ、大人しく今夜は下北に泊まるか、青森まで行ってしまうか…しかし、青森だとホテルがいっぱいだったりして(汗)。
観光センターでもらった案内本「ぐるりんしもきた」(無料とは思えないほど親切なガイドブック)によると、佐井村には9軒の宿があります。早速、部屋数などから判断して、4軒ほど電話をかけてみましたが、満室、もしくは港から車で30分も離れた(!)場所にあるとかでいずれも泊まれないことが判明しました。うっ、何だかんだでやっぱゴールデンウィークはどこもかしこも旅行客でいっぱいなのか…。
これでダメなら諦めよう…と、1軒、さっきは電話がつながらなかった宿に望みをかけて再び電話しました。
「何人ですか? …おひとり? 空いてますよ」
あった、あったよ! 部屋があった!(クララが立った!のノリで) 聞けば、港までも徒歩10分くらいとのこと。またしてもギリギリのところで宿が確保できてしまった…こうなってはもう行かざるを得まい。

RIMG0181 前の座席が女性の顔のイラストに見える。。。


16:55、最終のバスは佐井村へ向かって走り出しました。それは実に、果てしのないバス旅でありました。下風呂温泉(所要1時間)を過ぎたあたりで乗客はわたし1人になり、夕暮れとともに寂しくなっている車窓風景は、わたしを根拠のない不安に沈めていきます。金額は無情にもどんどん上がって行き、いったい、佐井村に着く頃にはいくらになっているんだ…と、そっちの不安でも心拍数が上昇します。
先日の加茂よりは民家の数は多いけれど、加茂にはない辺境感があるのは、海が近いせいでしょうか。下風呂を過ぎるとマグロで有名な大間崎。このルートこそレンタカーで回って、都度都度降りて、観光すると楽しかったかもなあ…。しかし、今バスを降りることは、死を意味します(ウソ)。
バスは延々と走り続け、そのうち銀河鉄道ならぬ銀河バスにでも変身するのではないかと思えてきます。完全に、わたしだけのために走っているこのバス…贅沢と云えば贅沢だけど、どうも当て所なくて落ち着きません。
しかし、どんなことにも終わりはあり、やがてバスは佐井村の停留所…ではなく、宿の目の前で停まってくれました。すでに日はとっぷりと暮れて、民家の明かりと街灯だけが魂のように光っていました。
結果、所要時間は2時間20分! 金額にして2380円! 路線バスにここまで長い時間乗ることになったのは初めての体験かも…。
宿の前に降り立つとすぐに、おかみさんが出てきてわたしを迎えてくれました。電話では、夕食は用意していないと云われていたけれど、「こんなのでよかったら…」と、大きなおにぎり2つと、これまた大きなハマグリがたくさん入った味噌汁を出してくれて、その素朴な食事は胃と心にきゅっと染みわたりました。
そして、風呂も普通の家風呂かと思いきや、青森ヒバでできた広い風呂だったりして! 風呂から上がって、暖房を炊いた部屋で寝転がる、ああ、なんという安堵感。
すべてから守られているような気持ちで布団にくるまり、今日を振り返ります。
またしても、行き当たりばったりだったな…。いつも、次の一手をギリギリまで決められない。というか決めたくなくて、わざとらしく保留している。行き当たりばったりは、効率という面で見れば愚かだし、いい大人がする旅じゃないってことは分かっているんだけど…。
それでも、こうやってどこか知らない場所へと流れ着くとき、わたしの幸福は自由の中にこそあるのだと、改めて感じるのです。