雪が降り始めました。突き刺す寒さが心地よい、とは言えなくなってます。
で、文学フリマ書評の続きですが、はじめておきながら、こんなことわざわざ書く必要あんのか? と思っていました。でもまあ、せっかくなので書ける分だけ書きますけど。今回は同人誌Daisy Chainさん。
「むらぎも」 羽岡 元
傑作、といっていいだろう。少なくても、私の中では。著者の筆力はプロ作家のそれに劣らない、いや、それ以上ではないかと思っている。喚起力のある文章。リアリズムに徹した人物造形は、いきいきと物語の中を生きている。なにより、語り部が照らし出す寄り添いのまなざしが暖かい。
初見淑子なる女優と、その母親「らく町お菊」の親子2代に渡る来歴は、昭和という時代がいまだ終っていない人々もいる、という事実を思い出させる。たしかに、そういった話はこれまでも散々語られてきたことなのかもしれないが、この当たり前の事実をまだまだ飲み下せないまま生きている人たちもいるだろうし、そこに留まったままの人たちもいるだろう。来歴とは結局、我々が過去からの延長線上でしか語ることができない物語そのもの、ということかもしれない。だから、主人公以外の人物たちにもそれぞれ来歴があり、間接話法で語られるカミソリ英治やおせんのそのエピソードが重層的に織られてゆく構成はたしかな重みをもつ。二人の言葉は、まるで読者の傍で話しかけてくるような、そんな錯覚さえ覚えた。
誇張に聴こえるかもしれないが、つまり「業」の物語といってよいかもしれない。人間は清いままでは生きられないし、だからといって汚れたまま生きてゆくわけでもない。背反する業を背負いながら積み重ねてゆく来歴を生きてきた女の哀切が、ただひたすら胸を打ち、昭和という時間を「今ここ」に感じさせる。正直に告白すると、何度か泣きました。
ラスト1行まで選びぬかれた言葉が織り成す素晴らしい小説に、脱帽です.
揺れる波間を写した表紙や、巻頭の幻想的な切り絵も美しく、大変満足させてもらいました。
