〈複雑に切断加工した木材を嵌め込み叩きつつ、巧みに組み合わせて行く宮大工さんたちの仕事ぶり〉
〈樹木葬『法楽陵』のベニカナメ〉
夏から続いていた陽の力が去ってしまう寸前となったある日、古い墓所でお納骨を行った。
東日本大震災にも耐えた伝統的なフォルムの墓石は、それほど大ぶりではないが、石質といい、無彩色にほんの少々、淡いパープルが溶け込んだ色合いといい、建て主のセンスが偲ばれる。
皆さんにお線香を捧げていただき、いよいよ最後の一人になった。
とは言え、いちいち後姿を視認するわけではなく、ほとんど瞑目して経文を唱えており、人の動きは気配として感じているのみだ。
その時、妙なことが起こった。
墓石の前へ足を運んだのは一人だけなのに、もう一人、誰かが脇で佇んでいる。
足音が聞こえなかった割には、そこに居る存在感があまりに濃密だ。
この世の人ではないだろう。
ただし、結界の中へ入って来たのだから、魔ものの類ではない。
お線香を上げた人の足音が正面から動いたのを合図に、次の所作へ移った。
目を開けると午後の陽光が小生の右後から射し、墓石のパープルは画家ジョルジュ・スーラがカンバスへ置いた点たちのように、存在感を増していた。
すべてが終わっても、喪主様が小さな声で感謝を口にしたのみで、あとは誰も口を開かない。
無事、納まるべきところへ納まってご安心でしたね、とのみお話しし、静かに辞した。
もちろん、〈あの人〉はもう、いない。
振り返り「誰か参加する予定だった方がおられませんでしたか?」と訊ねたい衝動にかられたが、落ち葉たちの形を見ながら、そのまま歩を進めた。
駐車場に着き、少し落ちついて霊園を眺めた。
さっきの方々がゆらゆらと揺れるように墓石群の間に現れ始めた。
それぞれの脳内に〈もう一人〉が浮かび、皆を寡黙にさせているのではないか、と勝手に思いつつ、早々に車をスタートさせた。
エディ・コスタの「ハウス・オブ・ブルー・ライツ」が流れ始めた。
天才と呼ばれた彼は、勝負の一枚によって名声を不動のものにしたが、まもなく、31才で去ってしまった。
もう、この先へは行けないと思えるほど深いタッチで響く低音は、あの世へ通じる扉の鍵までも弛めさせそうだった。
この世があの世と通じ合う時間と空間は確かにある。
原発事故の早期終息のため、復興へのご加護のため、般若心経の祈りを続けましょう。
般若心経の音声はこちらからどうぞ。(祈願の太鼓が入っています)
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「おん さんまや さとばん」※今日の守本尊普賢菩薩様の真言です。
どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=rWEjdVZChl0