〈「着物さくさく」様よりお借りして加工しました〉
仙台市営地下鉄泉中央駅の近くに年配者も立ち寄れるバーがある。
かつて、一度しか行ったことはないが、あるシーンが心から離れない。
久方ぶりに「裏勝(ウラマサ)り」を見たのだ。
高校生の頃、江戸時代の「奢侈(シャシ)禁止令」について習った。
贅沢(ゼイタク)を敵視し、質素倹約を旨とするよう指示するお達しだが、もう一つの狙いもある。
身分制度を守るために、分相応の服装を強いたのだ。
しかし、安定した時代に生活を楽しむ人々は、「はい、そうですか」では済まなくなる。
感性が〝佳い〟と反応することを制御することはできない。
こうした背景で「裏勝り」という美意識が生まれたらしい。
男性用の羽織は普通、地味な色合いだ。
それをきちんと身につけて歩くのは、着流しよりも落ちついた風情があり、他家を訪ねる際などの礼儀にもかなっている。
こうした羽織の裏地は当然、材質も色合いも質素に作られた。
ところが、ケンカと色恋が大好きな江戸の男性たちは気づいた。
〝いざという時、パッと脱いだ羽織の裏地が鮮やかだったらどんなに粋だろうか〟
しかも、裏地は脱がない限り見えないので、過差(カサ)として取り締まられることもない。
羽二重(ハブタエ)などの高級地を用い、色、柄共に凝った羽織の裏地を楽しむ「裏勝り」は、江戸の男女を虜にした。
さて、バーの「裏勝り」はトイレのそばにあった。
私たちは必要に駆られてトイレへ向かうので、扉をめがけてまっすぐに進む。
周囲のものはあまり、目に入らない。
このバーでは、自分の席へ戻ろうとした時に、通路脇の生け花が目に入る。
しかも豪華な作品は、視線の高さなどに飾られているのではなく、普通なら扉が付いて掃除用品などが入れられるような場所に置かれている。
だから、その存在に気づかなかったり、あまり目にとめない酔客も多いらしい。
トイレから戻り、落ちついた感じのママさんへ言った。
「羽織の裏地ですね」
ママさんは応えた。
「あれが飾れる限り、やって行こうと思っています」
この店が何に勝負をかけて営まれているか、わかるような気がした。
希有(ケウ)な店の名はMARL(マール)という。
原発事故の早期終息のため、復興へのご加護のため、般若心経の祈りを続けましょう。
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「のうぼう あきゃしゃきゃらばや おん ありきゃ まり ぼり そわか」※今日の守本尊虚空蔵菩薩様の真言です。
どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=IY7mdsDVBk8