
私たちは、家に仏壇 があって当たり前、そのお世話をするのが母親やお祖母ちゃんの役割であると思ってきた。
しかし、仏壇 が徐々に消え、大人が子供に合掌を教えなくなりつつある。
それは習俗や慣習や生活感覚が〈変わった〉と簡単には言えない大きく深刻な問題を孕んでいるように思う。
今から30年ほど前、初めて日本を訪れた宗教心理学者デニス・クラス 氏は、日本に就職した息子の友人宅を訪れ、どの家でも神棚や仏壇 を目にした。
関心を持った氏は訊いた。
「これでどのような儀式をするのか?」
「特別なことはなく、ただ朝夕に手を合わせて挨拶する。
大切な事がある時は、仏壇 の前に正座し、静かに亡き父の声を聞き、その大切な事が無事に終われば、父に報告する」
氏は驚いた。
そのあたりのことを宗教学者カール・ベッカー 博士は『愛する者は死なない』にこう書いている。
「親が亡くなると、まるでこの世に存在しなかったかのように二度とその声を聞くことのない西洋人として『いったい死者をどのように考え、扱ってきたのだろうか』と、その父親は衝撃を受けた。
日本では、すでに「あの世に逝った」親が息子の心の中で生きており、その知恵、その教え、その姿が、遺された者の人生に活かされている。
『これぞ文明だ』と痛感したのである。」
この体験に基づき、デニス・クラス 氏は『続いていく絆』を書き、欧米で大反響を呼び、続編も出た。
それは、西洋人の心のどこかにも、「大切な人を忘れたくない」という気持があるのに、フロイトが「死者を忘れろ、前へ進め」と示した方向性が宗教的絶対性を持ち、死者を忘れない者は異常者扱いを受けていたからである。
第一次世界大戦により家族を失った数百万人もの遺族は、あたかも「何もなかった」ことにして前を向かされつつ、ここまで来たが、今や、他の文明、フロイト流と異なる思想に触れて心が動かされたのだ。
カール・ベッカー 博士の言葉は重要だ。
「日本人は、聖書のように決まった教典を読み宗教を理解するのではない。
家族のつながり、お盆やお墓参り、時代劇などのテレビ番組といった庶民文化を通して、死やあの世についての考えを身につけているのではないであろうか。」
そのとおりである。
しかし、氏が言う「庶民文化」は薄れつつある。
8月6日号の「週刊ダイヤモンド」によれば、「自分なりの死生観 (生と死の考え方)を持っている人」は、わずか9・5パーセントである。
30才~79才の男女1万人に対する調査は、「死後の世界について考えたことがない人」30・9パーセント、「存在するのは現世の生だけで、死んだら無になると考える人」28・8パーセントという結果を出した。
無信仰の人は約7割である。
新築のきらきらしい住居のどこにも、神棚や仏壇 は居場所を与えられなくなってきた。
そして、祖父母4人全員の名前を言える人はわずか4割しかいない。
中国の文化大革命によって家族や師弟などの絆を断たれ、親や祖父母に対する人倫的感覚を忘れた人々、あるいは継承されてきた文化を弊履のごとく破壊した人々を批判した日本人もまた、自ら似たような道を歩もうとしているのではないか?
とめどない学校や職場でのいじめ 、パワハラやセクハラなどの卑劣な行為、それらは、人倫の荒廃、文化の劣化を表しているのではなかろうか?
わずか30年前、西洋人の魂を揺り動かした私たちが共有している宝もの(文化・文明)をあらためて見なおしたい。
経済第一主義、科学的合理性への極端な傾斜、弱肉強食を放置する強者の自由、つまりは、自分さえ儲かればよい、見えるものしか信じない、強い者が勝ちで弱い者など知ったこっちゃない、という危うい方向の危険性に気づきたい。
西行が詠んだ辞世の句である。
「願はくは 花の下にて 春死なむ そのきさらぎの 望月のころ」
お釈迦様が入滅された花の季節にあの世へ逝きたいと願い、そのとおりになった。
同じ頃、義経に殉じた武蔵坊弁慶も詠んだ。
「六道の 道のちまたに 待てよ君 遅れ先立つ 習ひありとも」
あの世で地獄界に堕ちようと、修羅界で再び闘おうと、必ずおそばへ逝くから待っていて欲しいと思いのありったけを叫び、堂々と後を追った。
さいわいにして私たちにはまだ、こうした句に共鳴する部分が残されている。
立ち止まり、振り返りたい。
子供たちと日本の未来のために。
原発事故の早期終息のため、復興へのご加護のため、般若心経の祈りを続けましょう。
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「おん さんまや さとばん」※今日の守本尊普賢菩薩様の真言です。
どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
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