
ご来山される方々の口からときおり耳にする映画『後妻業 』を確認した。
娯楽映画なので登場人物の言動は当然、誇張されてはいるが、人倫 を無視するところまで色欲と財欲が暴発し、良心もいのちも破壊されてゆくさまは、現実世界のわずか半歩、先に何があるかを実感させられた。
婚活 会社に勤める後妻業 のエース小夜子(大竹しのぶ )の言動は、私たちの心のどこかにある〈本音〉に通底しており、小気味よい。
しかし、日常生活で〈本音〉に蓋がされているのは、それが背徳的で、前面に出れば〈おしまい〉になることを私たちが知っているからだ。
無論、〈本音〉とは言っても、表面の心のすぐ下あたりに時として湧き出す曇り程度のもので、その奧には、曇りを笑い飛ばしたり、吹き飛ばしたりする仏性(ブッショウ)がある。
客席のほとんどを埋める中高年のカップルは、小夜子のセリフや行動に思わず笑ってしまうが、そこには余裕があるはずだ。
お互いにわかっているからだ。
小夜子の活躍で大いに儲けさせてもらっている婚活 会社の社長柏木(豊川悦司)も、2人を恐喝する探偵本多(永瀬正敏)も、小夜子を「化けもの」だと言う。
小夜子は男性にとって佳い女を演ずるだけで、心の中にはあらゆる悪徳 がある。
お釈迦様は「十善戒」という行動目標を示され、江戸時代の傑僧慈雲尊者(ジウンソンジャ)はそれを「人の道」として生涯、説かれた。
ところが、殺すなかれ、盗むなかれ、犯すなかれ、嘘つくなかれ、などの戒めは、どれもがことごとく小夜子の意中にない。
だから、普通の人なら必ず生じるはずの人倫 に背く祭に生ずる葛藤など、無縁だ。
そのあっけらかんとした〈欠落〉こそ、化けものの、化けものたるゆえんだ。
あまりにも見事に小夜子を演じた大竹しのぶ は、原作を読んだ時、「あっ、これ、絶対映画になるな」と思ったという。
そして、彼女の実年齢より遥かに年上の小夜子役がテレビや映画から回ってきて驚いた。
「えっ、なんで、みんな、そう思うの。こんな怖い女を私が?」
もちろん「現実にいたら絶対許せないとんでもない女」と断言しているが、もしかすると幾分か〈地〉も入っているのではないかと思わせるほどの成りきりぶりは圧巻だ。
痛快とまで感じられるほど、悪徳 に徹底している小夜子が可愛いのは、愚かではあっても本気だからだ。
「ものすごいポジティブ志向で、自分は絶対に幸せになる、何があっても私は大丈夫、人生をうまく生きてやるぞという女でもあるので、やっていて楽しかったですね。」
この「ポジティブ志向」に観客は救われる。
スクリーンでは、背徳が、必ずもたらすはずの無惨な結果へとつながっては行かない。
小夜子と一人息子との間で完全に破綻している親子関係がもたらす怒鳴り合い、つかみ合い、奪い合う悲惨なシーンですら、一種の活劇になっている。
愛を知らない小夜子の一生懸命さによって、観客はペーソスや笑いや同情が引き出される。
とても完成度の高い娯楽映画であると言えよう。
とは言え、この映画が私たちへ突きつけてくる問いはどれもが重い。
たとえば、子供が親を見向きもしない時、たとえよからぬ魂胆があるとしても、日々、楽しく過ごさせてくれる異姓がそばにいれば、本人にとって〈それはそれでよい〉のではないか?
小夜子に殺された耕造(津川雅彦)の次女明美(尾野真千子)は真実に気づき、奪われた遺産 を取り戻そうと小夜子を追いつめるが、耕造が秘匿していた遺書 に「最後の最後まで、おもろかった」と記載されていることを知り、「父の金は父のもの。誰に残そうが自由」と思う。
当山へ人生相談に来られる方の中には、親が生きているうちにもう、財産は自分のものだと錯覚している人が少なくない。
親子関係にはいろいろあり、錯覚から悶着は生じるのは、決して珍しくないパターンである。
このあたりは、悪徳 からの行動によってあぶり出される一人の男性における人生の締め括り方すなわち終〈括〉の問題だ。
そして、あの世まで持って行けない財産をどう処置するかという人間性の問題だ。
映画は、小夜子の悪徳 ぶりと、この問いかけとが二本の柱となっている。
大ヒットしているのも当然だ。
ただし、もしも本当に後妻業 を営んでいる女性がいた場合、この映画が力強い応援歌になっては少々、困るのだが……。
原発事故の早期終息のため、復興へのご加護のため、般若心経の祈りを続けましょう。
般若心経の音声はこちらから どうぞ。(祈願の太鼓が入っています)
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「おん ばざら たらま きりく」※今日の守本尊千手観音様の真言です。
どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=IvMea3W6ZP0
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