
最近、昭和53年に亡くなった数学者岡潔 博士に再び脚光が当たっているという。
5月23日付の朝日新聞も「数学の本質『論理ではなく情緒 』」として紹介した。
「マティスの展覧会に行き、年代順に並べられた作品やその作品に先立つ素描をたくさん見て『数学もこんなふうにやればよいのだ』と思ったという。
文学も好み、漱石や芥川、芭蕉 などの作品を愛読した。
数学教育については『計算の機械を作っているのではない』と情緒 を培うことの大切さを強調した。」
博士は、情緒 を磨き、霊性 を高めることが人間として生きるすべての面において中心的課題であると考えた。
大正時代に光明主義を掲げ活躍した山崎弁栄 上人の教えに「誤りを見つけられない」と断じ、華厳 (ケゴン)の世界を友とした。
華厳 はこの世そのままに悟りの世界を感得するもので、お大師様も高く評価しており、奈良の東大寺に伝えられている。
「6、7年間考え続けても、完全に行き詰まることが3回あり、その後に必ず数学上の大きな発見があったという。
『本当に行きづまるためにはね、そっちを一旦指さしたら微動もしないという意志がいる(中略)行きやすい所を選って行ったら、行きづまるということはあり得ない』」
小生は学生時代、アルバイトをしながら山崎弁栄 上人や博士の本を読みあさった。
生き方がわからなかった時代、わからないままに彷徨い続けたことは、かけがえのない財産だったと、後になって気づいた。
5月25日の産経新聞は作家頭木弘樹 (カシラギ・ヒロキ)氏の新著『絶望読書』を紹介した。
氏はこう言っている。
「絶望したときは、どっぷりと浸らないかぎり、本当の立ち直りは訪れません」
あいまいなままで浮ついた生活に入り、全財産を失ってからようやく「本当の立ち直り」を得た者としては、腹の底から納得できる。
今はとかく、早く楽をする方向へ導くものにあふれてはいないか?
迷う〈はずの〉、あるいは迷う〈べき〉学生時代に、早く稼ぐ方法をうまく探さないと人生に遅れるよとばかりに急き立てる現在の教育には、何かが決定的に欠けているのではないか?
行きづまりから逃げなかったためにジャンプできたという博士の言葉の重みが胸に迫ってくる。
博士に驚愕した経験は山ほどあるが、特に、芭蕉 を批判した文章は忘れられない。
江戸時代の俳諧師野沢凡兆 が「下京や雪つむ上の夜の雨」と詠んだおりのエピソードである。
以下、博士の著書『日本民族』から抜粋する。
「この句を作るとき凡兆 は『雪つむ上の夜の雨』とすらすらできたのだが、上五字がどうしても置けず、とうとう芭蕉 に相談すると、芭蕉 は門下の人々に置かせてみた。
人々はそれぞれに置いてみたが、凡兆 はうべなわない。
それでとうとう芭蕉 が『下京(シモキョウ)や』と置いた。
しかし凡兆 は黙して言わない。
それで芭蕉 が、もしこれ以上の上五字があったら、私はもう俳諧のことを口に出さないといったので、凡兆 もこの五字に決めたのだという。
私は凡兆 にも芭蕉にも一応同感する。
しかし、芭蕉が俳諧をやめるようなことになっても仕方がないから、この上五字は良寛に頼むべきだと思う。
良寛がどう置くかはわかるようでわからないが。『下京や』とは置かないに決まっている。
私に置かせてくれれば『生死(イキシニ)や』だろう。」
置いてみて驚いた。
「生死(イキシニ)や雪つむ上の夜の雨」
動けなくなった。
人生がつかみきられている。
「下京や」の句とはまったく別ものになった。
しかし、70才になった今、学生時代とは異なる感覚でこのあたりを読みなおしてみると、凡兆はそれでも納得しなかっただろうと思う。
なにしろ、こう詠んだ人である。
「市中は物のにほひや夏の月」
「竹の子の力を誰にたとふべき」
博士の「生死や」はあくまでも博士のものだ。
見聞きし、嗅ぎ、味わい、触れるものをそのままに写し取る凡兆は「生死」とは詠まないだろう。
もしかすると、「雪つむ上の夜の雨」は、このままで未完の傑作とすべきだったのかも知れない。
いずれにしても、博士は数学を入り口として宇宙を相手にされたと思う。
行き着くところまで行こうとした博士の背中は遥かに遠いが、確かな灯火であることは疑えないと思う。
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