〈映画『唐獅子牡丹』の高倉健と池部良〉


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〈お釈迦 様が悟りを開かれた菩提樹の周辺〉


 若気の至りで愚連隊だったAさんが、ようやく自立するのを待っていたかのように、女手一つで育て上げた母親が病気で急逝しました。
 Aさんは茫然自失、何も手につかず、当山を訪れました。

「身体と心の芯が折れました。
 何もできません。
 ああすればよかった、こうすればよかった。
 なぜ、ああしてやれなかったんだろう、なぜ、あんなことをしたんだろう?
 毎日、悔い てばかりいます。
 酒ばかり飲んでいます。
 もう、わけがわかりません」

 お話ししました。

孝行 のしたい時分に親はなし、子養わんと欲すれども親待たず、などと言われているとおり、私たちは大人になると、育ててもらったことなどすっかり忘れてしまいがちです。
 そのうち、不意に親は倒れます。
 子供は悔い る。
 ある意味、仕方のないパターンであると言えます。
 親不孝 と言っても、親元を離れ、自立していれば、いつも、お父さんありがとう、お母さんありがとう、と思わずに暮らすのは当然です。
 若いうちは、仕事も遊びも恋愛も、自分の目の前のことに一生懸命やるので精いっぱい。
 何かのおりに、〝ああ、親に育ててもらったおかげだ〟と感謝したり、親の誕生祝いを贈ったりするのがせいぜい。
 しかし、いつか必ず、親が倒れたと知って愕然とする。
 その時、一気に、孝行 が足りなかったと気づく。
 これが自然な状態です。
 気づいたなら、自分にできる限りのことをするしかありません。
 もちろん、これで充分という基準はどこにもなく、誠意ある多くの子供たちは〝これしかしてやれない〟あるいは送ってから〝何もしてやれなかった〟と悔い るものです。
 もちろん、やれるだけやったから悔い はない、と自他共に思える方も確かにおられ、頭が下がる経験は少なからずありますが……。

 ドイツ人の意識調査によると、ものごころがついてから19才までは、友人が一番の関心事です。
 それから40才までは伴侶、恋人。
 50才までは仕事。
 70才までは健康、誰かのために役立つこと。
 その後は霊性や自然。
 
 人生がこのように推移して行く中で、親が元気に過ごしていてくれる場合は、自分の健康や利他の行いへ意識がシフトする頃に親の健康や暮らし方に問題が生じたりして、具体的な親孝行 をしながら最期まで見届けるといった流れになりますが、人生はそう、順番どおりには進みません。
 失恋で落ち込んでいるところへ不意の連絡が入ったり、仕事に追いまくられているまっ最中に親元へ駆けつけねばならなかったりします。
 多くの方々が親不孝悔い ながら生きる日々を体験するのです。
 かつて、高倉健 は映画の主題曲『唐獅子牡丹 』で唄いました。
『積もり重ねた不幸の数を、何と詫びようかおふくろに』
 小生は、半世紀も前に聴いた歌声がいまでも耳から去りません。
 ややもすればロクでもない時期を過ごさねばならない男性たちは、この歌や映画に〝おふくろ、ごめん〟と心で泣いたものです。
 
 さて、親不孝 が当然、みたいなお話ばかりしましたが、決して親不孝 を推奨しているのではありません。
 そろそろ、どうしたらよいか、へ移りましょう。

 作家の村上春樹さんは、誹謗や中傷にどう対処しているかと尋ねられて、こう答えています。
『規則正しく生活し、規則正しく仕事をしていると、たいていのものごとはやり過ごすことができます』
 この『やり過ごす』がポイントです。
 自分が親不孝 だった、親孝行 が足りなかった、と悔い ているのは自分です。
 だから、もちろん、自分の問題なのですが、そうした思いは、自分の意志でつくったものではありません。
 自分の心に生じたものです。
 言い換えれば、自分に〈やって来た〉のです。
 それは、村上春樹さんの心へ誹謗や中傷が飛び込んで来たのと、本質的には同じです。
 Aさんにとっては親御さんの死によって自分の心に生じた悔いですが、村上春樹さんにとっては情報としてもたらされた攻撃です。

 そこでAさんは今、悔いに押し潰されそうになっておられます。
 一方、村上春樹さんはどうか?
 淡々と仕事を中心にした生活を続け、情報をやり過ごしています。
 Aさんは、それができないからこうして来ているんです、とおっしゃりたいでしょう?
 でも、きっとできるはずです。
 たとえば、朝、定刻に起きる、決まった手順で歯を磨く、慣れた手つきで顔を洗う、腹具合に応じてトイレへ行く。
 これらは皆、『規則正しい生活』の一部です。
 どうぞ、そのことを意識しながら、明日、起きて、歯を磨き、〝規則正しく歯を磨いている〟と気づいてください。
 同じように、顔を洗い、トイレへ行き、そう気づきながら朝食を摂れば、Aさんを落ち込ませているものはきっと、はたらきを弱めていることでしょう。
 お釈迦 様も、私たちが迷わず、過たずに生きる方法の一つとして、規則正しくなすべきことをなす正命 (ショウミョウ)を説かれています。
 これは誰にでも可能なのです。
 どうぞ、試してみてください。
 おおげさな話をした割には大した結論でなくてすみません。
 ご加護を祈っています」




 原発事故の早期終息のため、復興へのご加護のため、般若心経の祈りを続けましょう。
 般若心経の音声はこちらから どうぞ。(祈願の太鼓が入っています)
 お聴きいただくには 音楽再生ソフトが必要です。お持ちでない方は無料でWindows Media Player がダウンロードできます。こちらから どうぞ。



「のうぼう あきゃしゃきゃらばや おん ありきゃ まり ぼり そわか」※今日の守本尊虚空蔵菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=IY7mdsDVBk8






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