時折、唱える真言 の意味を質問される場合があります。
 そもそも真言 とは真実 の言葉であり、み仏の聖なる言葉であり、それは、「まこと (真=言となっている)」なので、翻訳せず、そのまま唱えることになっています。
 だから、「三蔵法師 (サンゾウホウシ)」として有名な玄奘三蔵(ゲンジョウ)の頃、インドから中国へ入った経典を翻訳する際に犯してはならない五つの不文律ができました。
 その第一が、「真言 はみ仏の悟りの世界が直接言葉になったものであるから、翻訳せずに唱えねばならない」なのです。
 意味の探求に関しても、言葉の持つ真意にはレベルがあり、深意は、それを理解できるところまで修行できた者でなければ、せっかく師から聞いても無理解や誤解や曲解が生じる怖れがあるので、あまり説かれませんでした。
 実際、お大師 様が真言 の意義について説かれた『声字実相義(ショウジジッソウギ)』を読んでも、行者でなければ、ちんぷんかんぷんかも知れません。

 たとえば、ハチミツは身体に良いといかに詳しく説明されても、ハチミツが作られる過程をいかに詳しく説明されても、舐めてみない限り、ハチミツの〈いのち〉のところはつかめません。
 たとえば、体内から赤ん坊や宿便などを引き出す真言 を知っても、信じて修行し、ギリギリの場面で実際に法を結ぶという体験がなければ真言 は結局、意味を持たずその〈いのち〉をつかむことはできません。
 密教寺院である当山では当然、伝授された真言 を含む法を修して逆子 直しなどを行っています。

 信じて唱えなければ真実 は明らかにならず、信じて唱えればどうなるか、お大師 様は明確に示されました。

真言 は不思議なり観誦(カンジュ)すれば無明 (ムミョウ)を除く、一字に千理を含み即身(ソクニン)に法如(ホウニョ)を証す」

真言 は不思議です。よく観て唱えれば我への執着から生じている迷妄が晴れます。
 たとえたった一字であっても言葉に尽くせぬほどの内容を含んでおり、そのままに真実 世界を顕わにしているのです)
 亡くなった方をお送りする際に唱える真言 の中に「ア」の一文字があります。
 もし、その意味は?と訊ねられても、一行者としては「確かに成仏していただくために唱えています」としか答えようがありません。

 ともあれ、勉強会で教えて欲しいとの強い要望があり、『真言 陀羅尼』から抜粋、引用させていただいたものの一部を記しておきます。
 関心を持たれた方は、正しい唱え方を学び、正しく唱えてください。
 きっと、迷妄が薄れ、お救いの力を感得されることでしょう。

【子年生まれの方の守本尊 …千手観世音菩薩】
「おん ばざら たらま きりく」
(金剛法に帰命したてまつる。フリーヒ。)
 フリーヒは「因縁所生にして塵垢にまみれ(無明 の闇に覆われて)、自在なきわれら衆生が、涅槃(煩悩の消滅、さとり)を得る」。
【丑寅年生まれの方の守本尊 …虚空蔵菩薩】
「のうぼうあきゃしゃきゃらばや おん ありきゃ まり ぼり そわか」
(虚空蔵尊に帰命したてまつる。おお、怨敵を撃ち滅ぼす尊よ、祥福あれ)
【卯年生まれの方の守本尊 …文殊菩薩】
「おん あらはしゃのう」
(帰命す。ア・ラ・パ・チャ・ナ。)
 ア・ラ・パ・チャ・ナは「ア(菩提を求め)ラ(衆生を捨てず)パ(第一義に於いて)チャ(諸法を修して)ナ(自性あることなし)」。
【辰巳年生まれの方の守本尊 …普賢菩薩】
「おん さんまやさとばん」
(帰命したてまつる、汝はさ三摩耶なり)
【午年生まれの方の守本尊 …勢至菩薩】
「おん さんざんざんさく そわか」
(帰命したてまつる。サン・ジャン・ジャン・サハ、めでたし)
 サンは「染着遠離、諸漏大空」。ジャン・ジャンは「煩悩障、所知障の生を除いて大空を生ず」。「サハは不動堅住」。
【未申年生まれの方の守本尊大日如来
「のうまく さんまんだ ぼだなん あびらうんけん」
(あまねき諸仏に礼したてまつる。ア・ヴィ・ラ・フーン・カン)
【酉年生まれの方の守本尊 …不動明王】
「のうまく さんまんだ ばざらだん かん」
(あまねき金剛尊に礼したてまつる。ハーン)
 ハーンは「大空の位に行き住することによって一切を降伏し、菩提心の大護をなす」。
【戌亥年生まれの方の守本尊 … 阿弥陀如来】
「おん あみりたていせいからうん」
(甘露威光尊に帰依したてまつる。威徳光を世界に運載したまえ。円満したまえ)

〈密教の瞑想で観る本尊「ア」字〉
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