行者魔除 けのために使う錫杖 (シャクジョウ)の威力は偉大です。
 ここでは、カシャカシャカシャと錫杖 を振りながら唱える「錫杖 経」の読み下し文を区切って解説しています。
 いよいよ最終回、第九番目の経文です。

第九条 行願円満 (ギョウガンエンマン)

過去 世の諸仏は、
 錫杖 を執持(シュウジ)して、
 已(スデ)に成仏 したまいき。
 現在 の諸仏も、
 錫杖 を執持して、
 現に成仏 したまう。
 未来 の諸仏も、
 錫杖 を執持して、
 まさにに成仏 したまわん」


 過去 のみ仏方は、
 錫杖 をしっかり持った功徳によって、
 すでに成仏 されました。
 現在 のみ仏方も、
 錫杖 をしっかり持つ功徳によって、
 現に成仏 しておられます。
 未来 のみ仏方も、
 錫杖 をしっかり持つ功徳によって、
 必ずや成仏 されることでしょう。

 過去現在未来 は「三世(サンゼ)」といい、「永遠なる時間のすべてにおいて」という意味があります。
 それと対になる言葉が「十方(ジッポウ)」です。
 四方八方の方位と上下の方位をもって立体的な世界を表し、「無限なる空間のすべてにおいて」という意味があります。
 ここでは三世であり、そこにおられるみ仏は、「過去 荘厳劫(ショウゴンゴウ)一千仏」、「現在 賢劫(ゲンゴウ)一千仏」、「未来 星宿劫(ショウシュクゴウ)一千仏」となります。

 仏法における時間は「生・住・異・滅(ショウ・ジュウ・イ・メツ)」の「四相 (シソウ)」で表されます。
 読んで字のごとしであり、時間は、あらゆるものが生まれ、とどまり、変化し、滅するところに成立しています。
 成劫・住劫・壊劫・空劫(ジョウゴウ・ジュウゴウ・エゴウ・クウゴウ)、略して「成・住・壊・空(ジョウ・ジュウ・エ・クウ)」の「四劫 (シゴウ)」とも言い、成立したものは存在する力を持ちますが、因と縁によって成り立っている以上、変化を免れず、存続する力を徐々に失って崩壊へ向かい、やがては姿を滅し去ります。
 その成り行きは政治権力を観れば、よくわかります。
 政権が樹立された時は飛ぶ鳥を落とす勢いがあるので強い上昇力を示しますが、最大の力を発揮している時期は太陽が中天にあるのと同じく、必ず沈んで行くしかなく、どんなにあがいても崩壊は逃れられません。
 そして、ガラガラポンとなった状態は〈無〉ではなく、次の政権を生む土壌である〈空〉です。
 四劫 はあらゆる分野で無限に繰り返され、過去 にも現在 にも未来 にもあります。

 過去 における四劫 の中の「住劫ジュウゴウ」が、過去 にあった荘厳された時代つまり「過去 荘厳劫(ショウゴンゴウ)」です。
 その時には、一千仏がおられました。
 なお、仏法における「千」は無限を意味しており、当山が厄除け護摩祈祷で千枚の護摩木を奉じて祈ったのは、ご本尊様をご供養しようとする無限の誠心を示すためです。
 現在 における四劫 の中の「住劫ジュウゴウ」が、今ある智慧の発揮されている時代つまり「現在 賢劫(ゲンゴウ)」です。
 今も一千仏がおられます。
 未来 における四劫 の中の「住劫ジュウゴウ」が、星の廻りと共に成立する時代つまり「未来 星宿劫(ショウシュクゴウ)」です。
 未来 にも一千仏が現れます。

 この行願円満 (ギョウガンエンマン)の最終条では、錫杖成仏 への導きであり、あらゆるみ仏の持つ法具であることが示されました。

〈雪が閉ざし清める世界〉

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