1月21日の初大師 から、当山では新しい祈りが始まりました。
 密教 の根本経典である『理趣経 (リシュキョウ)』の「百字偈 (ゲ)」を皆さんと共に唱えるのです。
 この百文字が仏法の理想を示し、人間が生きる意味を明確に示していることは、これまで何度も書きました。
 これからは、皆さんと共に唱え、み仏からのメッセージが皆さんの心へはっきりと届くよう、さらに精進を重ねます。

 その第一号となったA家は、お身内の十三回忌で来山された方々でした。
 皆さんとご縁になったのは、当山が宮床へ移ってまだ間もない頃でした。
 七回忌以来となり、始めて講堂へ足をはこばれた方は、寺子屋建立運動が大きな実を結んだありさまに心から喜ばれました。
 古い小さな平屋の一部を本堂にしていた当山を信じ、ご葬儀 からご供養 までずっと仏縁を守った皆さんは、全員がしっかり唱えられました。
 そして、手にした経文を「我が家の宝ものにします!」と言い、日々の読誦を誓われたのです。
「もちろん、内容はよくわかりませんが、ありがたさは心に沁みました。
 これから何度も読めば少しづつわかってくるのでしょう。
 今度来た時は質問できるようにしっかりやります」。
 経典を信じる者として、こんなにありがたい言葉はありません。
 理による納得は仏法の入り口であり、 の感応こそが〈経典を生きる〉力になるからです。

 1月22日付の読売新聞は「ローマ遺跡 も亡ぶ」という記事を掲載しました。
 ポンペイの中心にある剣闘士の訓練場だった石の建造物が22年11月、大雨で全壊しました。
 世界遺産である一帯では、地域にある建物の8割は崩壊寸前だという声もあります。
 ポンペイ遺跡 の保護運動に取り組むアントニオ・イルランド氏(54歳)によると、保存・修復などに携わる常勤職員は30年前に76人だったのが、今は4人しかいません。
 ローマでも名だたる遺跡 が徐々に崩壊しつつあり、「国中の文化財が危機に直面している。予算削減は犯罪だ」と指摘する声が上がっています。
 危機に瀕している国家財政の赤字の削減と、遺跡 の維持・管理よりも遺跡 を活用した展示施設の新設に限られた予算を当てる政策がこうした状況を招いたという見方もあります。

 実に諸行無常 、形あるものは必ず滅びます。
 人は、人が生きること以上に優先させるものを持ちません。
 しかし、人のいのちがバトンタッチされている限り、心にある宝ものを心から心へとバトンタッチし続けるのは可能です。
 明らかに、「百字偈 (ゲ)」はそうした宝ものの一つです。
  の感応を広げるべく、当山は皆さんと共に唱え続けます。

菩薩 勝慧者(ホサショウケイシャ) 乃至尽生死(ダイシシンセイシ)
恒作衆生利(コウサクシュウセイリ) 而不趣涅槃(ジフシュデンッパン)
般若及方便(ハンジャキュウホウベン) 智度悉加持(チトシッカチ)
諸法及諸有(ショホウキュウショユウ) 一切皆清浄(イッセイカイセイセイ)
欲等調世間(ヨウトウチョウセイカン) 令得浄除故(レイトクセイチョコ)
有頂及悪趣(ユウテイキュウアクシュ) 調伏尽諸有(チョウフクシンショウユウ)
如蓮體本染(ジョレイテイホンゼン) 不為垢所染(フイコソゼン)
諸欲性亦然(ショヨウセイエキゼン) 不染利群生(フゼンリキンセイ)
大欲得清浄(タイヨクトクセイセイ) 大安楽富饒(タイアンラクフジョウ)
三界得自在(サンカイトクシサイ) 能作堅固利(ノウサケンコリ)

菩薩 (ボサツ)の勝慧(ショウケイ)ある者は 乃至(ナイシ)生死(ショウジ)を尽くすまで
恒(ツネ)に衆生(シュジョウ)の利を作(ナ)して 而(シカ)も涅槃(ネハン)に趣かず
般若(ハンニャ)及び方便(ホウベン)の 智度(チト)をもちて悉く加持(カジ)し
諸法及び諸有(ショユウ)をして 一切皆清浄ならしむ 
欲等(ヨクトウ)をもちて世間を調し 浄除(ジョウジョ)することを得せしむるが故に
有頂(ウチョウ)より悪趣に及ぶまで 調伏(チョウフク)して諸有(ショウ)を尽くす
蓮體(レンタイ)の本染(ンホンゼン)にして 垢の為に染められ不(ザ)るが如く
諸欲の性も亦(マタ)然(シカ)り 不染(フゼン)にして群生(グンジョウ)を利す
大欲(タイヨク)清浄を得て 大安楽にして富饒(フジョウ)なり
三界(サンカイ)に自在を得て 能(ヨ)く堅固の利を作(ナ)す

こよなき智慧の         ひじりらは
いましこの世の         つきるまで
つねに救いの          わざをなし
涅槃(ヤスライ)にゆく     こころなし。
般若(メザメ)と方便(テダテ) たぐいなき
加持(メグミ)のちから     てり映えて
この世のまよい         すべてみな
きよけきものと         なりぬべし。
大欲(タイヨク)などの     ちからもて
世のなかきよめ         調えて
この世の涯(ハテ)の      辺際(ハテ)までも
すべてのまよい         つくさなん。
蓮華(ハナ)に深紅(シンク)の いろあるも
泥のけがれに          染まぬごと
けがれに染まぬ         大欲は
あらゆるものを         すくいなす。
きよき大欲           あるゆえに
安楽(タノシミ)ありて     富みさかえ
この世のなかに         おもうまま
すくいのねもと         堅むべし。


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