宇奈月温泉事件 | ほわっとほうりつしませんか

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法学部生の学習ノートです。

初判例は、宇奈月うなづき温泉事件です!

 

誰が誰を、どんなわけで訴えたのか、どこが争点になり、

どんな判決が出されたのか、見ていきます!

 

 

 

登場するのは4者。

 (「現」と言うのは当時においての話です。)

 

X:原告(裁判に訴えた人)

  問題となる土地の所有者

Y:被告(訴えられた人)

  宇奈月温泉経者、すなわち引湯管の所有者

A:引湯管の設置者

B:Yの前の土地所有者

 

訴えが起こされたのが昭和10年、

引湯管が引かれたのは大正6、7年ごろ。

 

Bが土地の所有者だったころから、

引湯管はBの土地の上を一部通過していましたが、

撤去を求めることもなく、特に紛争は起きませんでした。

ここで1つ言及しておくと、問題になっている土地は、

急勾配で、荒れきっていて、利用価値がないに等しいところです。

 そりゃあ、紛争も起きないでしょ、と言いたくなるのですが、

   土地利用に関する取り決めがなされておらず。

 

これに目を付けたのがX。

引湯管がかかっている本件土地を、Bから買い取り、

Yによる土地の使用は、所有権の侵害であるとして、

引湯管の撤去、または土地の買い取りを要求しました。

 

Yが拒否したため、Xは裁判所に提訴。

 

 ここまでをまとまめると、

本件土地の所有者Xが、引湯管の所有者Yを相手どり、

Yによる不法占拠を理由に、

引湯管の撤去、またはそれに代わる補償を求めて訴えた事件です。

 

   あと1つ、引湯管はXの土地の上を通過していたわけですが、

   112坪のうちの2坪です。

   どちらかと言うと、かすってる、という表現が、良いような。

 

XはYに対して請求する権利があるのでしょうか!

 

 

 

まず1審、2審では共にYが勝訴しました。

引湯管のけろやというXの意見はかなわなかったということです。

 

原審(二審)から紹介します。

どんなことを言っていたかと言うと、

 

「所有権の正当なる行使に非ずして、範囲を逸脱したる請求にして、

権利濫用に外ならざれば、もとより法の保護を受くべきに非ず。」

 

古い判例なので、こんな感じの文章なんですね。

 

裁判所は、Xの権利行使について、

所有権の正当な行使でない、と判断しました。

事実の説明部分で下線を引いたように、

YがXから利益を得ることを意図して本件土地を買い取ったことは、

事実として認められているんです。

なんとなくそうなんやろ、ということではないことに留意してください。

 

これに対し、Yは上告します。

 

その理由は、

・Yに権利がある原因を説いていない。

・「隣地使用権」が当てはまる事業なのか。

・無権利の者が既成事実を作って他人の所有地に勝手に立ち入ること

 を認めるのは正義に反する。

・所有権侵害からの救済を求めるのは、正当な権利の行使であって、費用や便益の大小に左右されるものではない。

 

なんか、

ごもっともな感じがしませんか!

 

これに対し、最高裁は何という答えを出したのでしょう。。。

 

 

Xの行為は、「専ら不当なる利益の獲得を目的とし、所有権を持ってその具に供するに供するもの」、であり「社会通念上、所有権の目的に違背し、その機能として許さるべき範囲を逸脱するものにとして、権利の濫用に外ならず」としています。

 

つまり、上告棄却ですね。Xの訴えを認めなかった。

 

できるだけ原文に忠実に、判決理由を現代語っぽくします。

長いので、興味なかったらとばしてね笑

 

「所有権に対する侵害、又は侵害の危険が存在する以上、所有者はそのような状態を除去、又は禁止させるため、裁判上の保護を請求し、保護を獲得することが適当であるのは勿論のことだが、侵害による損失が言うに足らないものである。それに加えて侵害を除去することが著しく困難であり、莫大な費用を要する場合において、第三者がこれをチャンスとみなして、利益を得ようと図り、侵害に関係のある物件を買収した上で、侵害者に侵害の除去、あるいはその代償として自己所有物件を不相当に高額で買い取れという旨の要求を提示し、他の一切の協調に応じないような場合においては、保護の請求は単に所有権の行使という外形を持つだけで、真に権利を救済しようとしていない。すなわち、前述のような行為は、専ら不当な利益の獲得を目的とし、所有権をその目的達成の道具とするものであり、社会通念上、所有権の目的に反しており、その機能として許される範囲を逸脱するものだから、権利の濫用にほかならない。

 したがって、このような不当な目的を追行する手段として裁判上侵害者に対し、侵害状の除去、並びに将来における侵害の禁止を訴求するにおいては、その訴訟上の請求は、外観はさておき、その実体は、保護を与えるべき正当な利益を欠いているから、ただちに棄却すべきものと理解するのがだとうである。

 本件においてこれを考えてみると、原審は 、

(1)判示の宇奈月温泉場は全長約4170間(7.5kmくらい)より温泉を引いて使用しており、その管はAによって多大な費用と努力 を以て大正6年頃に敷設されたものであるが、今、本件土地上を通過する部分を撤去しようとすると、この引湯設備は無効に帰し、宇奈月温泉場の経営は崩壊させられるであろう。また、引湯設備に変更を加え (技術上可能だが、工費に約1万2000円(当時。)完成に約270日間を必要とする。加えて、Yが新しく本件土地に代わる引湯管の敷地を求めれば、いくつもの種の問題が出現し、解決は容易でない。すなわち、この引湯管の撤去問題は原審が示したように、宇奈月温泉事業経営に対し 大きな打撃であるのみならず、宇奈月地方の盛衰に関するような事項である。

(2)本件土地は、原審が示したように、荒地にして管が通っている敷地約2坪を含む急傾斜部分は、殖林農作は勿論、その他なんらの利用にも適さない。したがって、本件上地全部の価格は30余円(当時。)に過ぎない。

(3)Xは本件土地上に引湯管が通過していることを知り、かつ、その土地を利用する目的も持たずに、昭和3年1月、この土地を買い受けた上で、Y に対し管の撤去を迫り、Yが本件土地を他の土地と共に総額2万円(当時。今で言う数千万。)で買取らないならば協調に応じない旨を主張したことの各事実を認定する。これらを統合するとXの行為はあえて不当な利益の獲得を企図し、不要の土地を買収し、所有権の行使にかこつけてYを困惑させるものであり、この訴請求もこの目的に基き起こされたものに他ならない旨、推断されること、判文上自明であるから、原審が採用した証拠に照らせば、そのような判断ができないことはない。その通りならば、原審が本訴請求について、そのほかの争点の判断をせずに全部を棄却すべきものとしたのは、冒頭に説明した理由により相当だと言える。 つまるところ所論は、この訴訟を誠実な権利保護の請求であるとして、原判決への非難に基づいている。上に述べた認定事実に沿わず、この事実によれば原判決にはなんら所論が言うような違法な点があるとは言えないから、上告の論旨は採用しがたいい。」

 

ながい、けど面白い。

あと、大前提→小前提→結論、というふうになっていますね。

 

最後の、「つまるところ」からの部分はようわからんので、

のち補足します。

 

 

権利濫用問題のイメージが浮かんでいたら、幸いです(・・)

ではとりあえず。

 

 

使ってる判例集と、温泉入浴剤(笑)

書いてたら行きたくなりました。宇奈月温泉行ってみたい。

 

 

ではでは。

 

 

宇奈月温泉事件
大判昭和10年10月5日民衆14巻196貢

 

最終編集2020/10/30