「子どもが住んでいない物件を

紹介してください」

交通事故で亡くした娘を思いだすから

同年代の子供を見たくない。

子連れがいないアパートで

一人暮らしをはじめるジュリー。

ところが!

掃除道具を片付けようと物置の扉をあけて

ギョッとする。

ネズミが赤ちゃんを産んでいた。

プールで泳いでいると

水泳教室の女の子たち

歓声をあげて次々と飛び込んできた。

あぁ…胸が張り裂けそう。

子どもの影から自由になろうと

すればするほど逃げられない。

 
トリコロール/青の愛
クシシュトフ・キエシロフスキ監督
1993年
ジュリエット・ビノシュ
ブノワ・レジャン

映像美編につづいて寛容編です。

 

世の中にはどうしようもない

理不尽なことが色々あって…

 

高齢者に優しくないリサイクルBOXもあれば

夜のショーに出演する娼婦が

最前列に父親をみつけるような

やりきれなさもある。

主人公は自殺したくなるほどの

絶望を感じたばかりなのに

マスコミに追いかけられ

傷だらけの姿を写真に撮られるという

暴力をうける。

生きていると沢山の理不尽に遭遇する。

それに対してどう向き合えばいいのか…

 

 

 

  ネタバレ感想

事故のことを忘れたい。

他人と関わりたくない。

思い出も友情もいらない。

 

これ以上傷つきたくなくて

全てから離れようとするジュリー。

 

ところが

事故現場に居合わせた少年が訪ね、

「拾った十字架を返したい」と言う。

少年は、夫の最期のことばを

ジュリーへ伝えます。

事故直前、笑い話をしていた夫。

ジュリーは彼のジョークのクセを思い出し

笑いがこみあげる。

と同時に、たまらなくなる。

「十字架はあなたにあげる」

ところが皮肉なことに

ふたたび同じ十字架にめぐりあうのです。

夫に恋人がいたなんて。

彼女の首にも同じ十字架が。

しかも夫の子を妊娠している。

お腹の中で長男がスクスクと育っている。

5歳の娘を失ったばかりの彼女にとって

衝撃が大きすぎる。

でも、

受容える道を選びます。

 

生まれてくる子に夫の名を継がせ

夫が愛した女性屋敷を与える

 

恋人が申し訳なさそうに口を開く。

「彼が言ってたわ。

あなたは寛大な人だって。

理想的な女性頼れる存在」

誉め言葉だけど屈辱的な言葉です。

あの人は私を「善い人」感覚だったのね。

愛しい女性でもなく、傍にいたい女性でもない。

寛大で理想的な女性ですって?

私だって生身の女

言いたいことは山ほどあるのに。

 

でも、黙ってじっと見つめ返す。

 

女性は同情するように腕をのばし

「許して」と。

 

ジュリーはただただ耐え、受けとめる。

しかし傷ついたことで、

夫への愛に区切りがつく。

 

ずっと自分に想いを寄せてくれていた

男性オリヴィエとともに、

夫の遺した協奏曲を書き上げていく。

「君の曲として公表しなさい」

オリヴィエの寛容な愛にふれたジュリーは

彼と生きていくことを決める。

 

  ラスト5分でびっくり

「喪失からの再生物語」と単純に考えていた私。

 

ラストのナレーションハッとしました。

 

”たとえ私が天使の言葉で話しても

愛がなければ鳴り響く鐘にすぎない。

予言する力があっても知恵があっても

山を動かすほどの信仰があっても

愛がなければ無に等しい。

予言・ことば・知識がすたれようとも

愛はほろびない

聞き覚えがあるフレーズだけど

なんの映画だったっけ?

 

そうか!

 

ロバート・ベントン監督の

「プレイス・イン・ザ・ハート」だ。

 

 

パウロ(キリスト教お使徒)が語る愛。

コリント人への手紙です。

 

なぜこの一節をわざわざ入れたのか?

 

物語を振り返ってみると

主人公の行動ひとつひとつが

パウロの教えと一致しています。

 

ジュリーは娼婦立ち退き運動に加担しない。

居場所のない人を受け入れる

夫の曲を待ちわびる人々のために

期待にこたえる

認知症の母をけとめ

夫の裏切りをし、

生まれてくる子のために幸あれと祈る

まさにパウロの教え、そのものです。

 

悲しみを受け入れながら人をす。

 

それが苦しみから自由になれること

なのかもしれません。