おとなしくて危害を加えないはずの
鳥や孤独な青年や若いOL。
しかし、知らないだけなのだ。
その中に秘めた強い力があることを。
現実から逃げたいマリオンの目の前に
大金が置かれた。
現実を受けとめられないノーマンの目の前に
魅力的な女性が現れた。
そんなふとしたきっかけが
心のスイッチを押してしまう。
魔の瞬間がドラマティックに描かれる名作。
サイコ
アルフレッド・ヒッチコック監督
1960年
アンソニー・パーキンス
ジャネット・リー
ヴェラ・マイルズ
人の心が善と悪の間で揺れ動く現象を
映像でみせる作家ヒッチコック。
私はヒッチコック作品のなかで
目に見えるスリル
国際スパイもの、アクションよりも
目に見えないスリル
心理サスペンスが大好物です
道をはずしそうになるのを思いとどまるスリル。
一線をこえて暴走するサスペンス。
ガスヴァンサント監督バージョンはこちら↓
感想
高校生の頃、初めてみた作品。
ジャネット・リー VS アンソニー・パーキンス
彼らの名演技にしびれます。
母と暮らす孤独な青年ノーマン。
ここから出ていきたいと思っても、
母と離れられない事情がある。
そんな彼が経営するモーテルに、
マリオンがやってくる。
彼女は日常から逃れるため逃亡中。
雨宿り休憩のために、
偶然目にとまったモーテルへ
ノーマンは「お風呂」という単語を口にしない。
マリオンの部屋へ夜食を運ばない。
性的興奮を避けるように
彼女と距離を保とうとする。
心にブレーキをかける彼。
不気味に見えたり、
気の毒にみえたりするんです。
大好きな鳥のように、
パンを口に運ぶ目の前の女性。
「鳥みたいだね」
彼流の褒め言葉。
大人しくて自分を傷つけることのない、
美しい鳥。
鳥のように素敵な女性だと思っていたのに
突然自分に現実をつきつける脅威になる。
つい口走ってしまう。
「年老いた母の世話が大変なら
施設に預ければ?」
マリオンの親切心からでた言葉。
しかし、ノーマンは言葉の奥にある
他人事という本音に敏感です。
他人には、この辛さ、
わからないだろうね。
あっという間に親しみが薄れ、興ざめする。
静かだった心の炎が
メラメラと燃え上がる。
アンソニー・パーキンスが見事に演じています。
鳥のはく製に囲まれた
部屋の空気が、ずんと重くなる。
マリオンはノーマンから
いつ襲いかかってきても逃げ出せるように、
全身の神経を集中する。
まるで、山中でクマに遭遇した人のように。
だけど、自分が怖がっていることを
彼に悟られてはマズイ。
無表情で平気な顔を繕ってごまかす。
身の危険を知らせるベルが鳴り響く。
母親の呪縛に囚われ
脱出できない青年ノーマン。
彼とは逆に、
現実逃避をやめて
街へもどる決意をするマリオン。
しかし運命の歯車は
普通のOLマリオンも
だけど、大抵の人は
「私は一匹の蠅だって殺せやしない。
無害な人間だもの。」
そう思い込み断言する。
最近は、自制心を保とうとするノーマンより
「自分は正常だ。
狂人って怖いよね」
と切り捨てる人間の方が残酷にみえます。
事件を得意げに解説する精神分析医。
人って残酷で面白い。
人間のゆらぎを
自分を正常アピールしたい人は、
「私はそんなことを思ったことない」
「同情できても犯罪はだめよね」
わざわざ言ったり書いたりします。
その心の奥には
誤解されたくない、
同属にみられまいとする
気弱さがあるのでしょう。
でも、そういう人のほうが
何かのきっかけで危うい行動にでやすい。
だから人って面白い。
極上エンタメに仕上げた
傑作映画です。
2019年6月の記事を再編集しました。
ヒッチコック作品は他にもレビューしてます。
興味のある方は、そちらもどうぞ。