遥かなるモヤシソバ | BOOGIEなイーブニング!

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つも行くラーメン屋が臨時休業だった。

突然休まれてもらっても困る。こっちにも都合ってのがあるからな。胃は築地やよい軒のやよい麺を受け入れるカタチにトランスフォームしているので、悩みに悩んだ末に初見のラーメン屋に行くことにした。せっかく浮気するチャンスを向こうから切り出したのだ。


ニルス・ロフグレンという稀代のギタリストがいる。その卓越したギターテクニックは「歴史上、最も偉大なギタリストランキング」に入るほどの実力の持ち主なのだが、残念ながら器用貧乏なのだ。まったく華もない。しかし、ニールヤングの名盤アフターザゴールドラッシュに参加したり、リンゴスターオールスターズバンドにも参加、あのブルース・スプリングスティーンのバックバンドThe E Street Bandのリードギタリストも勤めているのだ。誰の色にも染まるそのギタープレイはまるでラーメン屋におけるライスのようだ。そんなNils Lofgrenのようなラーメン屋のライスの食べ方を探求する企画、それが【ニルスロフグレンラーメンライス】だ。



目隠し用に茶色いフィルムがかかった志村三丁目のスナックみたいな自動ドアを開けると、おババの機械音声よりも機械的な「いらっしゃいませ」が聞こえてきた。気の強そうなおババは俺に通路正面の4人がけの席へと強制的に案内する。隣のサラリーマンも4人がけに1人、俺もソファのセンターに腰掛けてメニューを一瞥した。確認作業である。注文するメニューは決めてある。だから街の中華料理屋に入ったのだ。俺はメニューの上の方の「モヤシソバ」を頼んだ。さぁ、おジジ、俺様のもやしそばを丁寧に作りやがれ。


しかし、間髪入れずにおババはもやしそばは無いと言う。俺が見たのは夜のメニューだと言いながら暖かいおしぼりとお冷やをテーブルに置いて、最後に俺の目の前に「お昼のメニュー」を差し出した。


非常事態だ。

なにか、なにかモヤシソバの代替品を。


お昼のメニューを上から下まで見たが、モヤシソバの代替になるのは五目ソバだけだ。まぁいい。五目ソバも嫌いじゃない。真っ先にウズラを食ってやろう。


しかし、おババはやたらと味噌ラーメンを推す。「このメニューの中でモヤシが入ってるのは味噌ラーメンかしら」


おいおい!なんか俺がモヤシを欲してるみたいになってるけど、俺はモヤシが食いたくてモヤシソバを頼んでいるのではない。熱々の醤油スープと餡の織りなすハーモニー。モヤシソバにおいて寧ろモヤシは脇役だろう。なんにも分かってねぇんだな。まぁ、いいや。五目ソバでとりあえず醤油スープと餡(あん)のハーモニーを代替しよう。モヤシのシャキシャキ感は白菜が代わりに演じてくれるだろう。確かに味噌ラーメンはメニューの一番上に書いてあったから、新参者の俺におババも相当食わせたいんだろうが、今の俺にはとろみが必要なのだ。


頑なに五目ソバを注文した。 

それと半ライス。


氷が三つしか入らない小さなコップでお冷を飲むと、間髪入れずにおババがスチール製のお冷ポットをテーブルにゴンと置いた。それでいい。俺はどこのラーメン屋でもお冷2杯は飲む。


昭和な店内は70年代日本歌謡の有線が流れている。山口百恵のこれっきりこれっきりこれっきりもうこれっきりですかーが、本当にこのラーメン屋に来るのがこれっきりになりそうな暗示をかけてくる。ラーメン屋には珍しく暖かいおしぼりが出てきたが、そいつで首筋まで拭いている時に店内を見るとおババが2人いることに気がついた。ちなみに厨房にはおジジと若めのコックさんの2人。


程なくしてヤンサラが入店し、俺の左舷前方に座った。常連なのか座るなり彼はメニューも見ずに「アケボノメン」とぶっきらぼうにおババに注文した。


アケボノメン?


この店の名前を冠したそのラーメンがあったのか。値段は俺の五目ソバと同じだった。失敗した。そんなもんがあるなら一度注文してみたかった。まぁ、いい。俺は今とろみを欲している。ひとたびテーブルに五目ソバと半ライスが着丼したなら、まず先に麺を食し、残った具をライスにぶっかけて中華丼に変化させるのだ。


俺は目を閉じて空腹を堪えた。


そして着丼。



目を疑った。


目の前にあるのはタンメンではないか?いや違う。ウズラがまるで俺を嘲笑うかの如く澄まし顔で乗ってやがる。五目ソバの定義とはなんだ。ウズラなのか。それよりもツッ込むのはレモンだろう。なんでレモン乗ってるのよ。なにモヤシソバも作らないで、余計な進化させちゃってるのよ。



ガッカリしながら俺はこの透明で塩味のスープを飲んだ。もうライスとの夢のコラボレーションもない。黙々と麺をすすり、スープを飲み、ライスを口に運んだ。段々とあのおババに腹が立ってきた。ランチタイムだからモヤシソバが作れないってなんだよ!こんなにガラガラなんだから作れよ。なんて思ってると左舷のヤンサラに「アケボノメン」が着丼された。


それは間違いなくモヤシソバだった。


つづく。