仏説無量寿経(上巻) 要約全文

 

 ある時、釈迦は王舎城において12000人の優れた弟子たちと一緒であった。弟子の中には、舎利弗・目連・摩訶迦葉といった釈迦教団の中心人物たち、また、普賢・文殊・弥勒といった優れた大乗の菩薩たちがいた。

 

 釈迦は、喜びに満ちており、その姿は清らかで表情は輝いており、いつも以上に気高く見受けられた。そこで、弟子の阿難は丁寧に合掌し、「世尊(釈迦)は今日は特に優れた禅定に入っておられ、また、世の中で最も秀でたものとして優れた智慧の境地に入っておいでになります。そしてまた、世の中で最も尊いものとして如来の徳を行じておいでです。過去・現在・未来の仏の方々はお互いに念じ合われるということですが、今まさに世尊も他の仏の方々のことを念じておられるに違いありません。もしそうでなければ、なぜ世尊のお姿がこのように神々しく輝いておられるのでしょうか」と問うた。

 

 これに対し、釈迦は「阿難よ。大変結構な問いである。如来はこの上ない心で迷いの世界を哀れむ。如来が世に現れるのは、仏の教えを説き、人々に真の恵みを与えたいと考えているからである。如来の悟りは、計り知れない尊い智慧を備えて人々を導くのである。これから私が説く教えをよく聞くがよい」と答え、以下のとおり、教えを説き聞かせた。

 

 今より遥か昔に錠光という名の仏が世に現れ、多くの人々を教え導き、悟りを得させた後に世を去られた。その後、多くの仏がこの世に現れた末に世自在王という仏が現れた。世自在王は、如来・応供・仏・世尊といった様々な聖者の呼び名で世の人々に仰がれていた。ある国王は世自在王仏の説法を聞いて深く喜び、悟りを求める心を起こし、国も王位も捨てて出家して修行者となり、法蔵(ほうぞう)と名乗った。

 法蔵は、才能にあふれ、強い志を持った優れた人物であった。法蔵は、ひざまずいて合掌し、「世自在王仏のお顔は気高く輝いておられ、何よりも尊い。その光明に比べると太陽や月の輝きはまるで炭のようです。持戒・多聞・精進・禅定・智慧の徳は並ぶものはなく、愚かさやむさぼりや怒りなどは全くなく、図り知れない功徳を備えておられます」と、世自在王仏の徳を称賛した。

 続けて、法蔵は、「私も仏になり、布施・持戒・忍辱・精進・禅定・智慧を修めてこの上なく優れた存在になりたい。仏になる時は、生死に苦悩する全ての人々に大きなや安らぎを与えることを誓います。ガンジス河の砂の数ほどの仏の方々の国土(以下・浄土)があるとしても、私の光明はその全てを照らします」と、自身の志を表明した。そして、法蔵は、「私はこの上ない悟りを求める心を起こしました。私のために教えをお説き下さい。私はその教えに従い、この上なく麗しい浄土を整えたい。速やかに私に悟りを開かせてください」と世自在王仏に懇願した。

 これに対して世自在王仏は、「どのような修行をして浄土を整えるかは、そなた自身で知るべきであろう」と答えるが、法蔵は「いいえ、それは私ごときが知るところではありません。どうぞ、他の仏の方々がそれぞれの浄土をどのように築き上げたかについて教えてください」と言って再度懇願した。世自在王仏は、法蔵の志が尊く深く広いことを知り、法蔵に対し、210億の浄土について説き、それら全てを見せた。

 法蔵は、世自在王仏の教えを受けて、この上なく優れた願を起こした。そして五劫という長い間、思いを巡らせて自身の国土を整えるための修行を定めた。修行を定めた法蔵は、世尊は世自在王仏の傍へ行き、合掌してひざまずいて報告すると、世自在王仏は「そなたが起こした願をここで述べるがよい。それを聞いた人々に悟りを求める心を起こさせ、また、菩薩たちに修行をさせることになり、大いなる願を満たすことができるだろう」と言った。これに対して法蔵は、「それでは私の願について詳しくお話しします」と答えた。

 法蔵は、世自在王仏に向かって「それではお聞きください。これより私の願いを詳しく述べます。私は、以下の48の願いを実現できなければ、決して悟りを開くことはありません」と言い、その内容を説明した。

1 私の国では地獄や餓鬼や畜生の者が存在しない

2 私の国の人々は死後、地獄や餓鬼や畜生界に生まれ変わらない

3 私の国の人々は金色に輝く身となる

4 私の国の人々には外見(美醜)の差別がない

5 私の国の人々は自己や他人の過去を知る能力「宿命通」を得る

6 私の国の人々は未来を予知する「天眼通」を得る

7 私の国の人々は世間一切の苦楽の言葉・音を聞く「天耳通」を得る

8 私の国の人々は他人が考えることを知る「他心通」を得る

9 私の国の人々は欲するところに自由に移動できる「神足通」を得る

10   私の国の人々は自己に執着をしない

11 私の国の人々は悟りを得ることが決定している

12 私の光明は他のすべての仏の国々を限りなく照らす

13 私の寿命には限りがなく、遠い未来でも尽きることがない

14 私の国には数えきれない数の声聞(聖者)がいる

15 私の国の人々の寿命は限りがない。他方、本人の希望で寿命を短くすることもできる

16 私の国の人々には悪い言葉を口にする者がいない

17 他のすべての世界の仏たちが私の名を称賛する

18 私を心から信じ、私の国に生まれたいと願った人々は、10回でも念仏すれば私の国に生まれることができる。ただし、父母や聖者を殺す、仏を傷つける、仏教教団を破壊するなどの「五逆の罪」を犯す者は除かれる。

19 悟りを求める心を持ち、功徳を積み、心から私の国に生まれたい者は、臨終の際に私が多くの聖者を従えて迎えに行く

20 私の名を聞き、私の国に思いをめぐらして功徳を積み、私の国に生まれたい者は、私の国に生まれることができる

21 私の国の人々は32種類の仏の特徴を備える

22 他のすべての仏の国の菩薩が私の国に生まれると、悟りを開く寸前である菩薩の最上位に至る。ただし、悟りを開かずに人々を救いたい菩薩はこれに限らない

23 私の国の菩薩は、仏を供養するために食事の時間ほどの短時間のうちに多くの仏の国を訪れることができる

24 私の国の菩薩は、仏を供養するにあたって、供養のための品を思いのままに得ることができる

25 私の国の菩薩は、無上の智慧について自由に説法をすることができる

26 私の国の菩薩は、金剛力士のような強靭な体を得る

27 私の国の人々が用いるものはすべて清らかで美しい

28 私の国の菩薩は、功徳が少なくとも、菩提樹の高さが400万里であると知ることができる

29 私の国の菩薩は、仏の教えを受け、心のままに弁舌をふるう智慧を得る

30 心のままに弁舌をふるう私の国の菩薩の智慧には限りがない

31 私の国は清らかであり、すべての仏たちの国を照らし出して見ることができる

32 私の国の建物・自然・全ては様々な宝や香りでできていて、香りをかいだ菩薩たちは仏道に励む

33 他のすべての仏の国は私の光明に照らされ、それを身に受けたならば、身も心も和らぎ、天人や人々よりも優れる

34 他のすべての仏の国の人々は、私の名を聞くと、不生不滅の真実を悟り、教えを決して忘れない力を得る

35 他のすべての仏の国の女性が私の名を聞き、悟りを求める心を起こして女性であることを嫌えば、死後は再び女性に生まれかわることはない

36 他のすべての仏の国の菩薩が私の名を聞けば、命を失った後も清らかな修行を行って仏道を成し遂げる

37 他のすべての仏の国の人々が私の名を聞いて礼拝し、喜び信じて菩薩の修行に励むなら、天の神々や人々に敬われる

38 私の国の人々が衣服が欲しいと思えば、思いのままに尊い衣服を身に着けることになる。裁縫や染め直し、洗濯は不要である

39 私の国の人々の楽しみは、すべての煩悩を断ち切った僧侶の楽しみと同じである

40 私の国の菩薩はすべての仏の国をはっきりと見ることできる

41 私の国の菩薩たちが私の名を聞くと、仏になるまでその身が不自由になることはない

42 他のすべての仏の国の菩薩が私の名を聞くと、煩悩と束縛を離れた精神統一の境地に至る

43 他の国の菩薩たちが私の名を聞けば、死後、人々に尊ばれる家に生まれることができる

44 他の国の菩薩たちが私の名を聞けば、喜んで菩薩の修行に励み、様々な功徳を欠けることなく身に備える

45 他の国の菩薩たちが私の名を聞けば、諸仏を観ずる精神統一の境地を得る

46 私の国の菩薩は、自身が聞きたいと願う教えを聞くことができる

47 他の国の菩薩たちが私の名を聞くと、すでに得た悟りや功徳が決して失われない位に至る

48 他の国の菩薩たちが私の名を聞くと、諸仏・菩薩の説法を恐れなく素直に受け入れ、不退転の位に至る

 法蔵が「四十八願」を誓った後、大地は打ち震え、美しい花が降り注いだ。そして、麗しい音楽が流れ、どこからともなく声が聞こえ「法蔵は必ずこの上ない悟りを開くであろう」と称賛した。その後、法蔵は、自身の国を建設することに一心に励み、計り知れない長い時間をかけて限りない修行を行い、菩薩としての功徳を積んだ。

 法蔵は、怒りや貪り、愚かな心を起こさず、常に精神を集中して心を落ち着け、優しい表情や言葉を使って人々と接し、ひたすら清らかな善いことを求めて人々に功徳を与えた。ある時は富豪となり、在家信者となり、バラモンとなり、大臣となり、国王や転輪聖王となり、六欲天や梵天の王となり、どのような立場に生まれても自由に振る舞い、常に仏を供養して厚く敬った。

  法蔵は、現在、無量寿仏(阿弥陀仏)という仏になって、西方におられる。その仏の国はここから10万億の国々を過ぎたところにあって、その名を極楽浄土という。法蔵が悟りを開いてから、すでに400億年が経過している。極楽浄土は金・銀・瑠璃・珊瑚・琥珀・蝦蛄・瑪瑙などの七つの宝でできており、大変美しく、どの世界よりも優れている。また、須弥山、鉄囲山などの山もなく、地獄や餓鬼・畜生などの世界もなく、四季の別もなく、寒くもなく暑くもなく、調和のとれた世界である。

 無量寿仏の光明は全ての国を照らし尽くす。このため、無量光仏や無辺光仏などとも呼ばれる。この光明に照らされると、煩悩が消え去って身も心も和らぎよい心が生まれる。もし、地獄や餓鬼や畜生の苦悩世界にあってこの光明に出会うなら、安らぎを得ることができる。仏の方々や聖者たちは全員が無量寿仏の光明を称賛する。人々がその光明の功徳を聞き、日常的に称賛するのであれば、極楽浄土に生まれかわることができる。

 また、無量寿仏の寿命は長い。すべての世界の人々が聖者となり、どれだけ長い時間をかけても考えても、無量寿仏の寿命を知ることはできないだろう。さらに、法蔵が悟りを開いて無量寿仏となってから最初の説法に集まった聖者たちの数も知ることはできない。

 極楽浄土には、七つの宝でできた宝樹が立ち並んでいる。金の幹に銀の花と葉と実をつけたものがあり、また、瑠璃の幹に水晶の花や葉や実をつけたもの、あるいは、金の根や瑠璃の枝をつけたものなど、非常に多様な宝樹が見られる。これらの宝樹が整然と立ち並んでおり、風にゆらぐ宝樹は様々な音色を奏で素晴らしく調和している。

 極楽浄土の菩提樹は、高さが1,5600,000kmあり、枝葉は四方に780,000kmに広がっており、宝の王と呼ばれる「月光摩尼」「持海輪宝」で飾られており、この上なく美しく輝いている。目・耳・鼻・舌・身の五感で菩提樹を感じる者は、無生法忍(空思想)を理解し、得られた悟りの智慧については将来に失われることがない。それらは、すべて無量寿仏の計り知れない力と本願(救済の誓い)によるものである。

 世間の帝王は様々な音楽を聴くことができるが、転輪聖王(正義をもって世界を修める理想の王)の聞く音楽の方が1000億倍優れており、多化自在天(いわゆる魔王)の音楽はさらにその千億倍も優れており、そして、極楽浄土の音楽はたった一音だけでも、それらの千億倍も優れている。極楽浄土には、すべての世界の中で最も優れた音楽が限りなく存在し、それらの音楽を聴くことは素晴らしい教えを聞くことと同じである。

 極楽浄土の講堂や宮殿といった建物は七つの宝で美しくできていて、近くには多くの水浴びの池があり、不思議な力を備えた水で満たされている。水は爽やかな香りで甘露のような味がする。池の底は七つの宝で満たされている。池に入ると、水量や温度、水流の調節が思うままであり、身も心も爽やかになって心の汚れも取り除かれる。池のさざ波の音は、悟りをたたえる声、空・無我を説く声、仏法僧の三宝を説く声のように素晴らしい内容に聞こえる。苦しみである地獄や餓鬼や畜生の名(発音)はなく、美しく快い音だけがあるから、その国の名は極楽というのである。

 極楽浄土で食事をしたいと思えば、七つの宝でできた器がたちまち現れ、そこには素晴らしい食べ物と飲み物が溢れるほど盛られている。これらを実際に食べる者はいない。見て香りを嗅ぐだけで食べ終えたと感じ、自ずから満ち足りて身も心も和らぐのである。人々は、その素晴らしい味に執着することはない。満たされるとそれら食べ物は消え去る。

 極楽浄土には真に清らかで安らかであり、そこでは誰もが悟りの境地に至る。聖者や菩薩、天人、人間は、誰もが優れた智慧と神通力を備えており、外見は同じで違いがない。ただ慣習に則り、「天人」や「人間」と呼称されるのであって、全ての者たちは外見を超えた優れた悟りの身を得ている。

 貧しい物乞いを王のそばに並べて比べると、物乞いの醜いことは言うまでもない。ただ、王は人間の中では外見が優れているとはいえ、転輪聖王に比べると卑しくて見劣りがする。それは、王と物乞いを比べるのと同じようなものである。しかし転輪聖王も帝釈天と比べると見劣りし、さらに帝釈天は他化自在天より見劣りし、そしてそのような他化自在天でも極楽浄土の菩薩や聖者より見劣りするのである。

 極楽浄土の人々が用いる衣服・食べ物・音楽・建物など全ては、人々に適したサイズとなり、思いのままの姿ですぐ現れる。大地には宝でできた布が敷かれており人々はその上を歩み、また、数限りない宝の網が覆い巡らされており、優れた徳を備えた極楽浄土の風が吹くと、網が揺れて優れた教えの声が聞こえ、香りが漂う。これらを感じる者は、精神統一の境地に至った修行僧のように心地がよい。

 また、極楽浄土に吹く風は花を散らし、余すところなく大地を覆う。花々は色ごとにまとまって混ざることがなく、柔らかく光沢があり、素晴らしい香りを放っている。足で花を踏むと10センチほどくぼみ、足を上げるとすぐ戻る。花が必要でなくなれば、地面が開いて、花はその中に消えて綺麗になる。また、様々な宝でできた蓮の花が咲いて光り輝いており、それぞれの花から何千億という光が放たれ、そこから何千億という仏が現れる。これらの仏がそれぞれ光を放ち、広く全ての者たちのために教えを聞き、悟りの道を歩ませてくれる。

 

 以上

 

 続きとなる仏説無量寿経(下巻) 要約全文はこちらです。

 

 無量寿経(上巻)の詳しい解説については以下のリンク先で