「K、D。行くぞ」
ミーティングが終わった後、俺とDは店長に連れられ外に出た。
これから写真撮影なのだ。
俺はようやく来た、と思った。
実はここ二週間、俺もDも一度もキャッチに成功しなかったのだ。
そんなもんだ、とキョウスケさんやアイルさんには言われたのだが、やはりキャッチに一度も成功しないとホストを辞めたくなる。収入が日払いしかないからだ。日払いは5000円。労働時間と参照してみると、コンビニで働いていた方がずっと良い。しかも仕事柄、どうしても煙草の量が増え、身だしなみも整えなければならない。まだ大丈夫だが、これが続くと赤字だな、と俺は焦り始めていた。
写真撮影された後、それは店の入り口に並べられる。それに、新規の客が来た場合に見るアルバムにも載る。後は様々な雑誌にも「新人」と書かれて掲載され、店のHPにも載る。
つまり、今までキャッチでしか自分の顔を広める事が出来なかったが、メディアを使う事により不特定多数の人間に自分の顔が見られるわけだ。当然、それを見て来店する客もいるはずだ。そう俺は思っていた。
外に出た俺達は店長の車に乗り、20分ほど目的地へ向かった。
「緊張するな、K」
「あぁ、めっちゃ緊張する」
「俺こんな感じで写真うつろうかな」
「えー!? それはないやろ! ウケすぎやって!」
「いやいや、K。ゆいとさんの写真とかこんな感じやん? ウケ狙ったら誰か来るかもしれへんで」
ちなみにDは二枚目で、ウケなんて狙わなくても普通に写真にうつった方が人気が上がったような気がするのだが――
結局彼は鼻の穴を広げ、目を上にし、舌をべろんとした顔で撮影された。
「Kはどうすんの?」
Dが聞いてくる。そういえば、全然どんな格好で写ろうかとか考えていなかったな、と思い、しばし黙考。キザな感じで写るのも恥ずかしいし、かといってDのようにウケ狙いも恥ずかしすぎる……というか痛い。
「Kはマダムウケしそうやから、微笑って感じにしとけ」
店長が言った。ミラー越しに店長と目が合う。
「あぁ、母性本能くすぐるって感じだもんなぁ」
自覚はなかったのだが。
やはり店長。
自分がどのようにすれば売れるのか、という事に後々気づいたのは、この言葉がキッカケだった。
「じゃあ、微笑にするっす」
と、店長に言う。そう言えば、店長と言葉を交わすのも久しぶりだった。二週間、俺はほとんど喋っていない。
車が止まる。出た先にあった店は、狭そうな写真屋。
しかし、中に入ってみると、ホストのポスターや写真がずらりと壁に貼られていた。どうやら、ホスト専門の写真屋さんらしい。
「じゃあ、Dさん、来てくれますか?」
まずは俺よりも一日先輩のDが店員に呼ばれ、写真撮影をする。
「あはははは! めっちゃ楽しかったわ~」
二十分ほどして撮影室から出てきたDは、大笑いしながら出てきた。
「どんな顔で写ったん?」
と聞いた所、車の中でしていた顔で写ったらしかった。すぐにパソコンにデータが転送される。俺とD、店長はそのディスプレイを確認する。
……変顔でDが写っていた。
大爆笑だった。
「これ絶対ウケるやろ~! 百パー俺ナンバーワンなれるわぁ~」
と大口を叩くDだったが、店長に小突かれた。
「じゃあ、どこか修正しますか?」
「D、どっかしたい所あるか?」
店長がDに聞いた。
ホストの写真は第二の顔。
売れるか売れないのかの二割程度は、この写真によって左右される。なので、必ずとは言わないが、たいていの写真は加工・修正される。
「そうっすねー。うーん……」
Dが考えていると、
「次はKさん、よろしいですか?」
と店員さんに声をかけられた。俺はDの修正を見ずに、撮影室へと連れて行かれた。
正直写真屋で撮影なんてした事のない俺は、「あぁ、テレビでこんな感じの見た事あるなぁ」程度の感想だった。
「何か自分で決めてらっしゃいますか?」
「微笑で」
店員さんの問いに簡潔に答える。マダムウケしそうな感じで、と言うと、「じゃあ、ここをこんな感じで」と店員さんが指示してくれた。あまり具体的に決めていなかった俺にとっては、かなり気が楽になった。
指示された通りの格好をする。
カメラに向かって少し体を斜めにし、目元を柔らかく、カメラ目線。口元を少し緩ませ、微笑。
――撮影。
その後、Dと同じようにパソコンに顔写真が転送された。
実は撮影前日に頬にニキビが出来てしまっていたのだが……修正してそれを消した。俺の修正はその一部だけで終わった。
この写真はすぐに持って帰る事になった。その日から、店の入り口には並べられるらしい。雑誌は申し込みなどがあるから、暫くかかるらしいが……。
「これからだな、俺達」
Dが言う。
俺もそうだと思った。