週末には息子達が嫁さんの抗がん剤治療の様子を訊くためにLINE電話してくるようになっています。

嫁さんの抗がん剤治療は折り返し地点を回ったのですが、段々と白血球の値が下がってしまい、とうとう病院から呼び出しがありました。

 

白血球の値を上げる注射を打ってもらいに行きました。

次の血液検査では値が上がっていることを祈ってます。

これ以上白血球の値が下がると抗がん剤治療が中止になる可能性もあるようです。

 

夜になると嫁さんの顔は以前より増して赤く腫れるので私は心の中だけで心配しています。

口に出さないのが我が家の暗黙のルールです。

しかし嫁さんが「全然大丈夫やで!」と言う度に私の心の中がチクっとします。

 

筋金入りのマザコンの息子は結婚したら少しはマシになるかと思ったら、全く変わらないのです。

私の様に心の中でじっと心配だけをしていればいいものの、息子も嫁のGちゃんも”あれはダメだ!これを食べなさい!遅くまで起きてたらアカン!”などと口うるさく言います。

 

 

息子達は地球の裏にあるワシントンDCからは実質的には何も出来ないので、少しでも母親を喜ばすことを話すようにしているのです。

 

先月に行われたNIH内のコンペティションで息子が賞を受賞したことを母親に話してました。

今年になって2度目です。

 

前回は賞金を$3000も貰ったのに私には何も送ってくれませんでした。

2年前に私が会社でその年の最優秀技術者に送られるAce Awardを受賞した時はその賞金のお裾分けをしてあげたのに...

前回は嫁のGちゃんも息子も同時受賞したのですが、今回はGちゃんはダメだったようです。

 

6000人以上の科学者(医師、生命科学研究者)、 100人を超えるノーベル賞受賞者を輩出した紛れもない世界でトップの医療分野の研究機関で何かしらの賞を受賞するなんて素晴らしいことだと私は思います。

 

息子は前回の論文で賞と賞金を貰ったのですが、ノーベル賞にノミネートされた著名な科学者の名前が息子の論文のクレジットにあるとビックリしました。

息子がよくそんな人と一緒に仕事にしているのかと思うと...

その著名な科学者のWikipediaを何度も読みましたね。笑

 

 

息子達はそういう明るいニュースを母親に話して少しでも母親に気分的に元気になってもらおうとしている気持ちは判ります。

嫁さんにとって息子の活躍は嬉しいニュースに間違いないのですが、嫁のGちゃんの活躍を聞くとあまり嬉しくないのです。

 

ぶっちゃけた話、嫁さんはGちゃんが自分達の研究で賞を貰ったとか、科学雑誌に論文が掲載されたとか、そういう仕事での活躍話を聞くと”また孫の顔を見るのが遠のいた...”とガッカリしてしまうのです。
彼らは少しでも明るい話題を話すと嫁さんが元気が出ると思っているのでしょうが...

 

さすがに世界一お金持ちのアメリカの研究機関であるNIH、息子やGちゃんの研究にどんと研究予算を貰えます。

大学院で少ない予算をやり繰りして研究していた頃と違って、ほぼ希望通りの予算を貰って自分達の研究が出来るのでNIHは天国だと言ってます。

 

Gちゃんは今年になってPI(教授)から新しい課題を貰い、科学者として一歩進展したことを喜んでいるのですが、そういう話を嫁さんが聞くと彼らが子供を持つことに全く興味がないことを感じてしまうのです。

Gちゃんはもう28歳です、そろそろ最初の子供を産んでほしいと嫁さんも私も望んでいるのです。

 

私の友人達や嫁さんの友人達から”孫が出来た!”という知らせを聞くたびに嫁さんと私は凄く羨ましく思うのです。

 

今息子達は”自分達の研究で人類を救う”みたいな使命感を持って働いているようですが、そんな特別なことをしなくても幸せはどこにでも転がっているものだと私は伝えたいのです。
普通に結婚して、普通に子供を産んで、普通に子供を育てる...
そしてその”普通”という奴がなかなか難しいことも彼らに知ってもらいたいのです。
 
人類を救う前に親を救ってくれ!孫の顔を見せてくれよ!というのが親の本音です。
 
去年4月にコロナワクチンの治験を始めたNIHの病院大統領だったトランプ氏が表敬訪問しに来た話をGちゃんから聞いたのですが、そこはGちゃんの職場です。
癌の研究をしているGちゃんも間接的にコロナ関係の仕事に協力していたようです。
すぐ近くの研究所で研究をしている息子は毎日Gちゃんの職場の病院の職員食堂で一緒にランチを食べます。
 
何年か前に息子とGちゃんの職場を訪れた時に記念にその職員食堂でランチを食べようと言われた時に「真っ平御免だ!」と言いましたよ。
その病院には世界で発生した有りと有らゆる 病気が詰まっている場所であり、嫁さんも私もそんな所で何も口に入れたくありませんでしたよ。
医療分野の研究では世界でトップの研究所ですが、世界でトップの危ない職場とも言えるのです。
 
そういう所で働いていると”俺が世界を救うんだ!”と大きな勘違いをするのも無理はないと思いますし、そういう若い研究者達が沢山働いてくれているお陰で嫁さんが患っている癌も現在は不治の病ではなくなってきているのです。
Gちゃんの職場の大先輩であるNIH長官賞を受賞した小林久隆教授が開発した光免疫療法は 近赤外光線で喉頭癌を治療してしまうという夢みたいな癌の治療法を発明し、現在アメリカと日本で 臨床治験が開始されているらしいです。
喉頭癌で亡くなった忌野清志郎もこの治療法が普及していたら助かっていたと思います。
 

以前の日記に書きましたが、私の後輩エンジニアの一人のP君が現在MITの助教授になっています。

民間会社の研究開発部メンバーとしては失格の烙印を押されてしまった彼ですが、IIT(イリノイ工科大学)で講師の職を得て、その後にフロリダ大学で助教授の職を得ました。
そこで実績を挙げて数年前にMITに移りました。
ブラックホールを研究しているそうです。
彼とは今でもFacebookでつながっているのですが、彼が投稿する天文学の話は私にはちんぶんかんぷんです。
 
ボストンで博士号を取得した後に別れた彼女をシカゴまで追いかけてきて、うちの会社に就職した情熱の熱い奴でした。
その時の彼女が現在の奥さんなのですが、TVドラマ「Xファイル」に登場するスカリー捜査官にそっくりな美人でした。
彼も彼の彼女も現在は50歳を過ぎており、子供はいません。
彼が会社をレイオフされる十数年前は早く結婚して子供を沢山作りたいと言っていたのに...
 
あれだけ子供を欲しがっていたP夫妻に何故子供をつくらなかったのかとプライベートなことを訊いてみたことがあります。
彼は神様のおぼし召しだと言葉を濁しましたが、宇宙の謎を解明することを優先させたとも言ってました。
俺だったら宇宙の謎を解明できると...
 
銀河系の中心に何かあるかなんて全く知らなかった人類がP君の様な科学者達の研究によって徐々に側面が見えてきたことは確かに素晴らしいことだと思いますが、子供を作るという大切な仕事を忘れていた彼らは私には決して賢い人達だと思えないのです。
 
子供が欲しくてもどうしても持てない人達が沢山いるのに...
 
銀河系の中心部か何処かはハッキリ知りませんが、ブラックホールがあくびをしようとも屁をここうとも我々には痛くも痒くもないと教養が低い私は思ってしまうんです。
彼らには申し訳ないですけど...
 
彼はうちの会社をレイオフされたことで仕事的には運が回ってきました。
彼の研究が成果をあげ、次々に高いポジションに移って行きました。
最終的にはMITの助教授に就いたのですから、それまでのとんとん拍子の道のりは凄く面白かったでしょう。
子供を育てる時間がなかったことも理解できないことはありませんが...
それに彼の奥さんもそもそも大学の研究室で一緒だった人ですから、お互いの価値観が同じなので彼の研究に応援してしまうのです。
 
彼のケースは私の息子夫妻に非常に良く似ていると思うのです。
P君の実力が期待以上に世間で認められたことなどや、夫婦とも研究職であることも同じです。
同じ職種の者同士が結婚するのは物事を偏って見てしまうと私は思うのです。
私は息子に彼のようにはなって欲しくないのです。
 
コロナワクチンを開発した科学者達は自分達の仕事で何百万人の人達を救うことが出来る!という強い志しで昼夜問わず働いていました。
科学者達のそういう使命感も理解できないことはありませんし、そういう彼らのお陰で我々は助かっているのですが...
科学者なんて現在の世の中に存在しないものを発見や開発する仕事ですから、これは自分でしか出来ない仕事だ!と思わないとやっていけないのかもしれませんが、決して子供を育てるという面倒くさい仕事を免除してもらえることにはなりません。
 
お前は何の為に生きているの?って訊く人がいますが、それは小学校や中学校の教科書にもハッキリ書かれてあることです。
植物でも動物でも、バクテリアにしても、我々生き物全ての究極の目的は”子孫を残すこと”なのです。
生き物全てに子孫を残す義務が課せられているのです。
コロナウイルスは生物ではありませんが、自分の子孫を残す為に変異してワクチンと戦っているではないですか。
 
生物学的に言えば我々夫婦は失格になります。
子供が一人しか持てなかったからです。
子供を二人以上持たないと人間という生き物が生存し続けられません。
嫁さんも私も努力はしましたが、病院に行っても結局一人だけでした。
 
これは私の我侭な意見ですが、息子達には我々ができなかった分を含めて3人は子供も持って欲しいと思っています。
自分達の医療分野の研究で世界を救うのも結構ですが、同時に自分達が人間として課せられた義務を果たせ!と私は思うのです。
 

「ワシントンDCは桜が満開です!」というメッセージと写真がLINEで送ってくると嫁さんも私も何だかほっとするのです。

土日の内のどちらか1日も出勤することが多い彼らに花見をする心の余裕があることを知ってほっとしましたよ。
そういう心があれば子供を育てたいという気持ちも沸いてくるだろうと思うのですが...