先月にシカゴから送った引っ越しの荷物が滋賀の自宅に着いたのですが、倉庫に積み上げられたままになってました。
去年末に日本に帰国する時は日本に帰国したらゆっくり出来る!と楽しみにしていたのですが、日本に帰国した直後からシカゴで働いていた時よりも忙しいのです。
まぁ、それは以前の日記に書いた様に嫁さんの乳癌の手術や私の大腸癌の検査があり、病院通いが続いているからですが、日本の運転免許証の書き換えの為に免許センターに行ったり、何度も市役所に行って手続きをする作業もありました。
携帯を買ったり、車を買ったり、TVを見られるようにしてもらったり、光のインターネットの取り付け、古い家の漏電防止の為の電気配線の張替え...もうテンコ盛りにすることがありましたね。
嫁さんが抗がん剤治療の副作用で髪の毛が抜けてしまうので、医療用ウィグを買いに遠くまで専門店に行ったこともありました。
精神的にやっと一段落ついたと思ったのは二月末辺りですかね。
やっとシカゴから送った引っ越しの荷物に手を付けられる日がきました。
倉庫と家の一つの部屋が引っ越し荷物で完全に占領されていましたので、とりあえず家の部屋に置かれた荷物からダンボール箱を開けて片づけることにしました。
私が一番気がかりだったのはコカコーラのアンティーク品でした。
シカゴから日本に輸送中に割れたりしないかと少し心配でした。
それは全て大丈夫でした。
私はその時点で安心してしまい、嫁さんの物が詰めてあるダンボール箱を開ける時に注意散漫になっていたことが嫁さんを怒らすことになってしまったのです。
嫁さんは日本に帰国したら親しい友達にシカゴのお土産としてあげたい物がありました。
それはファイヤーキングのエキストラヘビーマグでした。
嫁さんがファイヤーキングを集め出して、友達のMちゃんに紹介してからはMちゃんの方が熱心になってしまったのです。
エキストラヘビーマグは日本では2万円前後で取引されているので、Mちゃんはそこまでのお金を一個のマグに使えないと嫁さんは聞いていたので、嫁さんは自分が持っているエキストラヘビーマグの一つを彼女にプレゼントする積りでいました。
嫁さんは1940年代のエキストラヘビーマグ(裏面の刻印が"OVEN Fire-King GALSS")と1950年代の"OVEN Fire-King WARE"の2個を持っていますので、1950年代のマグをMちゃんにあげる積りをしていました。
嫁さんは私に「これとこれとこのダンボール箱は絶対に触らんとってや!私の大事なファイヤーキングが入ってるし。」と言ったのですが、嫁さんは抗がん剤治療で手足の先がしびれる時が多いので、大事な割れ物を扱うことは出来ないと私は判断し、強引に手伝っていました。
嫁さんは「人にあげる物も入っているから、丁寧に扱ってや!判ってる?」と何度もしつこく言ったので、私は少し気分を悪くしてました。
箱に書かれた番号とその箱に入っているリストは嫁さんがシカゴの自宅で書いたのですが、ファイヤーキングのマグXX個とだけでしか書いていなかったので、どの箱にMちゃんにあげるエキストラヘビーマグが入っているかは判りませんでした。
嫁さんと私は取り敢えず箱を開封し、マグを包んでいるプチプチをハサミで切って取り出し、床に置いていく作業をしていました。
そして私は嫁さんが探していたエキストラヘビーマグを見つけました。
そしてそれを開封したダンボール箱の上に置きました。
「よかった、よかった!これでMちゃんに会えるわ」と嫁さんは喜んでいました。
その時です、トイレに行こうと私が立ち上がった時です。
私の足がそのダンボール箱に当たってしまったのです。
そしたら上に置いたエキストラヘビーマグが床に転げ落ちたのです。
あぁ!っと嫁さんが大きな声を出しました。
慌てて嫁さんはそのマグを拾い上げて見たら、マグも割れてないし、キズも付いてなかったので安心しました。
「あー良かった!大丈夫やったわ!」と嫁さんは喜んだのですが、しばらくしてから取っ手の上の方にヒビが入っていることを発見したのです。
「アンタは...この中で一番大切な物を壊してしまう人なんやなぁ...寄りによってこのマグを...あんたらしいわ。まぁええわ、いつものことやし!」
そして更に言うのです、「あんたを責めているんとちゃうで、自分を責めているんやで。アンタが何かをしてくれれば一番やって欲しくないことをする人やと判っていて頼んだ私が馬鹿やっただけや。もう気にせんでもええから。」
嫁さんは取っ手にヒビが入ってしまったマグを大切な友達へのアメリカのお土産として渡せなくなったので、得意のメルカリで二束三文で売ると言いました。
エキストラヘビーマグは日本では2万円前後で取引されていますが、それは所謂”美品”であって、小さな小さなキズでも気にする日本人には1000円の価値もないと嫁さんは嘆いてました。
友人の奥さんのプレゼントとしては役に立たなくなってしまいましたので、嫁さんが明日からそのマグでコーヒーを入れてやると言うのです。
売っても二束三文なので、それなら使った方が得だと言いました。
そして一週間ほど私が使いましたが、あまりにもこのマグの重さに嫌になりました。
以前はヘビーマグでコーヒーを飲んでいましたが、エキストラヘビーマグは私には重すぎるのです。
熱湯を入れても、電子レンジに入れてコーヒーを温めても取っ手のヒビが大きくなることもなく、何も変わりませんでした。
日常に使うには何の問題がないのは明らかでした。
これなら嫁さんが言ったような1000円以下の価値じゃないぞ!3000円ぐらいでも売れるぞ!と思ったのです。
1950年代のエキストラヘビーマグはシカゴでも高値で取引されていたので、取っ手に小さなヒビが入っていても3000円ぐらいの価値があると私は思いました。
1000円の価値がないと思っている嫁さんが3000円ぐらいで私が売ってやったら「よくやった!」と褒めてくれると思ったのです。
それにヒビが入ってしまったマグを私が使い続けていたら、ことある毎に嫁さんが思い出してしまうのが嫌だったのです。
嫁さんが熟睡した午前1時過ぎに携帯でそのマグの写真を幾つか撮影し、説明文を書いて出品しました。
メルカリの画面の最終確認の”出品する”のボタンを押してから2~3分後ぐらいですかね、私がトイレで用を済ましてその部屋に戻ってくると”お知らせ”の項目に何件かのメッセージが届いていたのです。
午前1時半過ぎなのにメルカリを見ている人が沢山いるんだなぁと思いました。
それと同時に私が何かヤバイことをやってしまった気がしたのです。
慌てて、”お知らせ”をクリックすると「XXXさんがイイネをしました」というメッセージの後に「XXXさんが購入しました。」というメッセージもありました。
「どんなもんだい!俺がやれば5分以内で2800円でワケアリのマグを売ってやったぞ!」と心の中でガッツポーズをしました。
翌朝に嫁さんが自分のiPhoneを見れば2800円で売れたことを喜んでくれるだろうと思いました。
ところが、翌朝の今日...
私が起きて、台所に行ってコーヒーを飲もうとした時に嫁さんが言うのです、「アンタ、私が寝ている間にやってくれたな!」
嫁さんが言うには、あのぐらいのヒビなら、最低でも5000円で売れたのに、私が二束三文で売り払ってしまった言うのです。
ご機嫌斜めなんです。
それを聞いて私も反論しましたよ!
日本人は神経質だから少しでもヒビが入ったマグの価値は1000円以下になったと言ったのは嫁さんではないか!
だから2800円で売ってやった私に感謝すべきだと...
確かに2800円の売り上げでしたが、ゆうゆうメルカリ便の送料は700円だし、その箱も100円、そして包装の材料は別としてもメルカリに手数料として10%支払うので、実際にはそのマグが1720円の価値になると言うのは嫁さんの言う通りでした。
その1950年のマグを買う為に遠くのアンティーク店まで行って、百数十ドルで購入したのに、その価値が小さなヒビのお陰で1720円になってい待ったのは紛れもない事実でした。
ファイヤーキングで一番人気のあるエキストラヘビーマグはあまり市場に出て来ないレア物だし、しかも1950年代のビンテージマグなら少々ヒビがあっても目立たないものであれば5000円なら売れるものらしいです。
私は2800円で売れただけでもラッキーだったと今でも信じていますが...
嫁さんが言うのです、出品して5分や10分で売れるのは絶対に間違った設定をしているものだと...
たまたまエキストラヘビーマグを探していた人が自分の予算内で見つけて購入したのだと嫁さんに言ったら、嫁さんはそれなら2分や3分以内に他の人からの”イイネ”が付かないと...
何だか嫁さんが正しい気がする...
嫁さんはお金に関してはとやかく言う人ではないのですが、私が嫁さんが寝ている間に勝手なことをしたことに気分が悪いのでしょう。
もし私が5000円でそのマグを売っていたとしても違う何かの文句を言ったでしょうね。
結婚35年目、嫁さんのことは大体何でも判りますよ。
何れにせよ、購入した人から丁寧なメッセージが嫁さんに届いたので嫁さんも喜んでいました。
良い買い物が出来て嬉しいとのメッセージでした。
嫁さんは苦労して手に入れたあのマグが大切にしてくれそうな人のところに嫁いで行ったので、それだけでも嬉しいと言ってくれました。
世の中の幸せというものは一定量しか存在しないものであり、それを皆が貰ったり、あげたりして幸せは世の中を渡り歩いていくのではないでしょうか。
そして幸せというものは”生もの”であり、他から回ってきた幸せを自分の懐だけに仕舞っておけば、その幸せが腐ってしまうような気がします。
自分が抱えている幸せを他の人にお裾分けしないと新たな幸せがやってこない気がするのです。
何の根拠もない話ですが...
これは私ではなく、嫁さんが今朝言った言葉です。
この日記は珍しく良い話でまとめられたと思います。