眠らぬ街のシデレラ 廣瀬遼一編 special story 「未熟でも」 | 蜜柑のブログ

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自分が選択したそのままを載せてるので

ご了承ください。

(あとで確認次第、修正する予定です)

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 送ってもらってもOKです。

無言申請は無効になります。

悠里から告げられた、

『親父は急な仕事で式に来れない』――

そのことがさっきからずっと、頭から

離れなかった。

(それを聞いた瞬間の・・・あの気持ち)

(妙に気が抜けたような・・・・
 あれは・・・)

残念――そう思った。

そして自分がそう感じたのだと

受け入れるまで、少し時間がかかった。

(親父が来てくれなくて残念・・・?
 なんでそう思う?)

(どうせ仕事で来れないだろうと
 思ってたし)

(そもそもついこの間までは来てもらう
 つもりもなかった)

実家にすら、年単位で帰らず

最後に会話したのがいつかも

思い出せないような状況。

それが数年続き、悠里との結婚を

意識し始めた頃だって

お袋だけが来るものだと思っていた。

(でも悠里のおかげで、前に比べれば
 だいぶ話せるようになって)

(それでも・・・式に来れないから
 残念だと思うほどじゃない)

そう思っていた。だからこそ

自分のこの感情が解せない。

来れないと思っていた人間がやっぱり来れない、

それになんの不都合があるのだろう。

遼一「はあ・・・こういうのが一番
   苦手なんだよなあ」




・・・・



「はあ・・・こういうのが一番
 苦手なんだよなあ」

理解出来ない感情。もっと深く

探らなければ、答えは出ない。

(でも、答えなんて出したくない)

どっちやねん。

(今さら自分と向き合うも何も
 ないでしょ)

親父のことはいったん忘れよう――

そう思うのに、さらに筆は

乗らなくなってしまった。

(・・・ショック、なのか?
 親父が来れないことが?)

(まさか・・・それだけはあり得ないだろ)

ごまかすように苦笑して、原稿に向き直った。






悠里と一緒に九州の実家まで

やってきた、その夜。

隣で眠る悠里の寝顔を眺めながら

今日の出来事を頭の中で整理した。

(弱音なんて吐いて、らしくもない)

てか、なんで半裸。











(悠里には何も心配をかけない)

(そんな家庭を築こうと思ってたのにな)





父「父親の気持ちは、父親になってみないと
  わからない」

「だからこそ、本来なら父親の方から 
 歩み寄らないといけないって」

「大臣ももしかして」

「わからないところまで歩み寄ろうとして
 くれてるのかもしれませんよ」

(・・親父が、俺に歩みよろうとしてる?)




・・・・・

 




(・・・親父は俺に歩み寄ろうとしてる?)

(だからこそ・・・式に出ようとして
 くれたのか)

では、自分はどうだろうか。

昔のようにいつまでも意地を張っているのは

もしかして自分だけなのかもしれない。

(そんなのかっこ悪いよなあ)

(ガキみたいに駄々こねてるダンナなんて
 お前も嫌だろ?)

そっと、悠里の頬を指で撫でる。

(俺もそろそろ、小泉みたいに正面から
 挑戦できるように変わるべきなのか)

(あの脚本を引き受けたときには・・・)

(その覚悟が足りなかったのかもしれないな)


遼一「けど・・・そんなに急には無理だよな」

声漏れてるで。

「はあ。これも歳をとったってこと
 なのかね」

ため息まじりに、悠里を抱きしめて眠った。








そんな中、悠里に連れてこられたフランス。

きっと何か考えがあるのだろうとは思ったが、

まさかセーヌ川へ来るとは思わなかった。

悠里「なんのヒントにもならなくても・・・
   気分転換くらいはできますよね」

遼一「そうね。サンキュ」

「ほんと、お前と一緒にいると飽きないわ」

新しいことにチャレンジして、どっちが

先にいいものを書けるか、という勝負。

神前式がいいと切り出されたこと。

そして・・・





・・・・




(俺のためにわざわざフランスまで・・・か)

(お前といると、何が起きるかわからなくて
 楽しすぎるな)

セーヌ川沿いを歩きながら

悠里と一緒に『五線譜の雨』の一節を口にする。

我ながら、何度聞いても青臭い作品だ。

悠里「泥臭い・・・人間臭い・・・」

「そうだ・・・遼一さん、それですよ!」

遼一「え?」

悠里「今回の脚本・・・純文学と似た
   感覚だって」

「つまり、人間臭くて泥臭い
 青臭い人でいいんです!」

(人間臭くていい・・・)

その言葉は、驚くほどすんなり

すとんと自分の中に落ちた。

「今回はきっと、セオリー通りじゃ
 ダメなんです」

「純文学みたいに」

「自分の中で消化しきれてないそういう
 気持ちを表現すれば・・・」

(・・・そうか)

「カッコ悪くてもいいじゃないですか。
 だって人間は悩む生き物ですから」

「ましてや今回の主人公は、複雑な
 立場で・・・」

「人を殺したっていう過去があって」

「それはきっと、綺麗ごとでどうにか
 なるものじゃないから」

悠里の言葉を聞きながら

自分の中で次々に話が組み立てられていく。

(かっこ悪くてもいい・・・そうか
 俺はそう言ってほしかったんだな)

(かっこ悪いことにこだわって、新しい
 ことに挑戦してもがくのを拒否して)

そんな自分が、一番かっこ悪い。



・・・・




(かっこ悪くてもいい・・・そうか
 俺はそう言ってほしかったんだな)

(かっこ悪いことにこだわって、新しい
 ことに挑戦してもがくのを拒否して)

そんな自分が、一番かっこ悪い。

(でも悠里が、そのすべてを認めて
 くれるとしたら・・・)

手帳を取り出して、今の感情をメモする。

実際に文字にして書き記すと、

さらに気持ちは明確になった。

(ありがとな、奥さん。お前のおかげで
 俺は変われそうだ)

(でも今は、脚本を完成させるのが先か)

書き終わったら、まずは式の日程の

変更をしよう。

あのカタブツが出席できるように。

周りが変わるなら、自分も

変わらなければ。

(いつまでも取り残されているわけには
 いかないよな)

(なんてったって、これからは愛する
 妻と一緒に人生を歩んでいくんだから)

すべてが終わったら、正面から親父と

話してみよう。

今まで言えなかったことも

青臭いことも全部。

その決心を胸に、悠里の手を取り

再び歩き始めた。