眠らぬ街のシデレラ 廣瀬遼一編 ② | 蜜柑のブログ

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私が密かにハマってるアプリのまとめ。

自分が選択したそのままを載せてるので

ご了承ください。

(あとで確認次第、修正する予定です)

 ※申請した後にメッセ
 送ってもらってもOKです。

無言申請は無効になります。

「何度聞いても青臭いし人間臭いわ」

悠里「え・・・」

遼一「弱さとか、そういうのを正面から
   受け止められる奴が」

「純文学に向いているんだろうな」

「泥臭さっていうのかね。俺は何事も
 必死になる前に手を引くからな」

(青臭い・・・人間臭い。泥臭い)

(そうだ・・・!)

悠里「遼一さん・・・それです!」

遼一「ん?」

悠里「今回の脚本、純文学と似た感覚って   
   言ってたじゃないですか」

「つまり・・・主人公は人間臭くて
 泥臭い、青臭い人でいいんですよ」

遼一「・・・・」

私の言葉に、遼一さんの目が

みるみるうちに驚きに見開かれていく。

「人間臭くていい・・・?」

悠里「はい!遼一さんは『セオリー通り
   書いてる』って言ってましたけど」

「今回は、セオリー通りじゃもしかして
 ダメなのかもしれません」

「いつも書いてる大衆小説と違って
 むしろ人間らしくて泥臭くて」

「青臭い感情があるからこそ・・・」

「主人公が生き生きするのかもしれませんよ」

一気に話す私を、遼一さんは凝視したままだ。

でも何かを思い出したように

ハッとなった。

遼一「・・・そうか」

悠里「え?」

遼一「俺もそろそろ、変わらなきゃ
   ならないところに来たんだな」

悠里「遼一さん・・・?」

遼一「新しいことんみ挑戦しようとするお前や」

「殻を割って出て来た小泉を見て」

「俺はこのままでいいのか・・・って
 柄にもなく考えたりした」

「でも本当は。この脚本の話を受けた 
 ときから気持ちは決まってたんだよな」

立ち止まってセーヌ川を眺めていた

遼一さんが、再び私を振り返って目を細める。




・・・・・




遼一「お前が言ったように」

「確かに同じとロコにいるのはぬるま湯に
 浸かっている状態で楽だ」

「でも新しいジャンルに挑戦するって決めた時」

「俺はぬるま湯から出たはずだったのにな」

(遼一さんがこんなふうに自分の気持ちを
 話してくれるの)

(めずらしい・・・)

(でも・・・今の脚本を完成させるためには)

(そういうことも必要なのかもしれない)

遼一「まだ少し、抵抗があったのかねえ」

「自分の内面を操る作業なんてできれば
 絶対やりたくないわ」

悠里「遼一さん・・・」

遼一「でもまあ、やるしかないよな、
   ここまで来たら」

「奥さんとの勝負に負けるわけには
 いかないし」

悠里「勝負・・・?あっ」







悠里「遼一さん。一緒に新しいことに
   チャレンジしてみませんか?」

遼一「何?」

悠里「私は政治部。遼一さんは・・・
   新しいジャンルに」

「それで、どっちが先にいいものを
 書けるか・・・勝負しましょう!」









自分で持ちかけた勝負を思い出して

なんだか申し訳ない気持ちになった。

悠里「あのときは」

「遼一さんが脚本の仕事をやりたそう
 だから必死だったんですけど」

「でも今思えば、余計なことでしたよね。 
 そのせいで遼一さんは・・・」

遼一「いや、お前に背中を押されなければ
   この仕事は引き受けなかった」

「後悔とまではいかないだろうけど」

「たぶんずっと心に引っかかったまま
 だっただろうな」

(そう言ってもらえてよかった・・・)

(そう思えるほど、遼一さんの中で)

(今の脚本に対して前向きになってきたのかな)

遼一「ん?そういえばこのシーン・・・」

「そうか、そうだな」





・・・・・





「ん?そういえばこのシーン・・・」

「そうか。そうだな」

取り出した手帳に、遼一さんが

さらさらと書き留めていく。

悠里「何か浮かんだんですか?」

遼一「ああ・・・いや」

「お前には内緒」

悠里「え!?なんでですか!」

遼一「お前も内緒でここに連れてきただろ?」

悠里「でもその前は遼一さんが内緒で
   私をここに・・・」

遼一「はいはい。いいから行きますよ」

形勢逆転か。

私の手を取り、遼一さんが足早に歩き出す。

その横顔は、さっきまでとは

うってかわってさっぱりしていた。

(何か吹っ切れたのかも・・・!
 だとしたら来てよかった!)

悠里「なんか、いつもの私たちに
   戻りましたね」

遼一「ん?」

悠里「さっきは私が遼一さんの手を
   引っ張ってたのに」

遼一「ああやって奥さんに引っ張ってもらうのも
   たまにはいいもんだけどね」

「でもやっぱり、こっちの方がしっくり来る」

悠里「ところで、これからどこに行くんですか?

遼一「そうだな・・・とりあえず
   『五線譜の雨』の舞台を回ってみるか」

「お前は?取材に来たのに俺に付き合って
 大丈夫か?」

悠里「はい。政権交代の町の情勢とかも
   知りたいので」

「遼一さんについてあちこち行けるなら
 助かります」

遼一「そういうことなら、一緒に行きますか」

その後、『五線譜の雨』に出て来た

場所をふたりでたどり・・・





・・・・




途中のカフェで一休みしている間も

遼一さんは手帳にメモを取っていた。

悠里「ふふ。ずっと書いてますね」

遼一「ああ。こんなの久しぶりだわ」

「これならいい話が書けそうだ」

悠里「よかったです。来た甲斐が
   ありましたね」

遼一「ほんとにねぇ。今回も奥さんに   
   助けられたな」

悠里「今回もって?」

遼一「普段からいろいろ助けられてるでしょ」

遼一さんの言葉に、デジャヴのような

何かを感じる。

悠里「今の言葉、前にもどこかで・・・」

「あっ!お父さんが言ってたのと
 同じですね」

遼一「ああ、そういた言ってたな。
   お義母さんにも助けられてるって」

「知らないうちに、俺たちも夫婦らしく
 なってるのかねえ」

悠里「げ、厳密にはまだ夫婦じゃ
   ないじゃないですか」

遼一「もう長年連れ添ってるでしょ」

「付き合い始めてから何年経ってると
 思ってんの」

私に軽くデコピンして笑い、遼一さんが

再び手帳に何やら書き記す。

(きっともう大丈夫だ。あと一ヶ月あれば、
 遼一さんなら巻き返せる)

(本当によかった。私も、少しは
 役に立てたかな)

遼一さんを眺めながら堪能する

コーヒーとデザートは

特別おいしい気がした。