眠らぬ街のシンデレラ 続々編 響編 special story | 蜜柑のブログ

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私が密かにハマってるアプリのまとめ。

自分が選択したそのままを載せてるので

ご了承ください。

(あとで確認次第、修正する予定です)

 ※申請した後にメッセ
 送ってもらってもOKです。

無言申請は無効になります。

「妻に贈るセレナ―デ」





―――今夜は外で食事をしよう。

悠里を夕食に誘ったのは

昼過ぎだった。

すぐに折り返し連絡が来て、

行ってみたい店があると言われたが――



(いい店だな)

(料理の味も好みだ・・・)

(・・・悪くない)

食後のコーヒーを口にしながら

店を評価する。

料理だけじゃなく、店のスタッフ

客の質、ライティング。

店全体の雰囲気も悪くなかった。

(どこで見つけてきたんだ)

(すっかりニューヨーカー気取りか?)

(記者なんてやってると、馴染むのが
 早い)

(まあ、もともと悠里は
 順応性が・・・)

ちょうど店員が運んできたデザートに

驚いた。

山盛りのティラミスだ。

響「それを一人で食べるのか」

悠里「絶対に食べて欲しいって
   言われたんです」

「ん~、本当だ。ここのティラミス
 すごく美味しい」

悠里はたっぷりとすくった

ティラミスをほおばっていた。

嬉しそうな顔で忘れかけたが

気にすることを言っていたことを

思い出す。

響「食べてほしいって、誰に・・・」

悠里「レイさんです」

「お勧めのお店を聞いておいて
 よかった」

響「レイ・・・」

ひっかかるよね、うん。
口説かれてたよ?


(またあの男と会っていたのか・・・)

(何なんだ、あいつはマスコミ嫌いじゃ
 なかったのか)

(悠里は俺の・・・)

そこで思考が止まった。

悠里にとって俺が何者でもない

という事実だ。

今の俺の立場はレイとそう変わりない

他人ということになる。






・・・・・





悠里にとって俺が何者でもない

という事実だ。

今の俺の立場はレイとそう変わりない

他人ということになる。

響「・・・悪くない味だった」

「レイにそう伝えておいてくれ」

悠里「はい!」

ホッとする様子の悠里を

見つめながら、内心焦っていた。

プロポーズをして、一緒に暮らし

始めたが、それだけだ。

結婚式を挙げてやる約束だけで

満足して、うっかりしていたが――

なんだほんとにマリッジブルーやないか。

「――それで、お前の実家は
 いつにする」

つい焦りが言葉になった。

悠里「私の実家・・・?」

案の定、悠里は驚いている。

だが、止められない。

響「挨拶がまだなのを忘れたのか?」

「直接、婚約の報告もしていない」

「NYで一緒に暮らしていることは
 話してあるのか?」

悠里「い、いえ・・・」

響「早めの方がいいだろう」

悠里「それは、そうですけど・・・」

「どうしたんですか、突然」

(俺はお前と他人でいるつもりはない)

急きょ、一時帰国を決める。

悠里は戸惑っていたが

もうひとつの理由があった。

響「善は急げだ」

「ああ、それとこれも渡しておく」

カバンにしまっていた婚姻届を

悠里の前で広げる。

悠里「これって・・・」

響「日本に行くなら出してしまえばいい」

「証人として彩音には書いてもらった」

「友人でもよかったが、ここは
 家族の方がいいだろう」

「もうひとりの証人には、お前の両親の
 どちらかになってもらうつもりだ」

悠里の両親への挨拶。

そして入籍。

それが今回の一時帰国の理由だった。





・・・・・

 

 


帰国してすぐに、俺たちは悠里の

実家のある九州へ飛んだ。

遅い時間のためホテルに入り

悠里は実家へ電話をかけていた。

悠里「妄想じゃなくて現実」

「本物の椎名響だから」

響「・・・・・」

(なんの話だ・・・)

母『また、そんな・・・
  同姓同名とかでしょ』

『お母さんを騙そうとしても
 無駄だからね』

話を聞いていても、少しも進まない

ことに焦れる。

(これじゃ埒が明かないな)

(俺が話した方が早い)

悠里「騙してません」

「本物の――あっ」

悠里から電話を奪うと俺が

電話に出た。

響「初めまして、椎名響です」

『えっ、ええっ?!』

『本物?本物なの??』

響「ええ、本物です」

「ご挨拶が遅くなり申し訳ありません」

「しかも、電話越しで・・・」

「少し前から悠里さんとお付き合いをさせて
 させていただいております」

「職業柄、あまり公にしていなかったのも
 あり」

「すっかりご挨拶が遅くなりました」

『本物・・・本物だ・・・』

「明日、直接お伺いさせていただこうと
 思いますので」

「その時にまたお話させてください」

『ええ、それは喜んで・・・』

「では、明日・・・失礼いたします」

切ると、悠里へ電話を渡す。

響「親子して、言動がそっくりだ」

「本物、本物と・・・
 俺の偽物を見たことがあるのか」

「まったく・・・」

急に、妙な緊張を感じ始める。





・・・・




急に、妙な緊張感を感じ始める。

響「準備はいいか」

悠里「もちろんです」

「ここまで来たら、思う存分
 自慢します」

「明日が楽しみですね」

響「俺は不安になってきた」

「少し早まったかもしれないな」

(この俺が緊張しているのか)

(今まではどんなコンサートでも
 緊張はしなかったのに)

久しぶりに感じる緊張に、

俺は笑った。






翌朝。

悠里の実家へと向かうために

レンタカーを借りると

待ち合わせ場所へと急ぐ。

慣れない道に気を付けながら

運転していた時だった。

フロンとグラスに大雨が打ち付け

はじめる。

「なんだ、前が見えない・・・」

「走れそうにないな」

悠里に連絡――と

携帯電話を手にして不安になった。

(まさか、あいつ・・・この雨の中
 立って待ってないよな)

(あいつのことだ、俺がわかりやすい
 ように動かないかもしれない・・・)

前にもあっただけに、

否定しきれない。

「チッ」

俺は近くに車を駐車して、

大雨の中を飛び出した。





・・・・・




ひどい雨だった。

それなのに濡れるとか、

そんなことは何も考えずに

走っていた。

それくらい悠里のことばかり

考えていたからだ。




(結局、悠里は雨宿りしてたから
 よかったが・・・)

あの大雨を思い出しながら

鍵盤から手を離す。

NYに戻ってきて、数週間が

過ぎていた。

結婚式の準備はすべて終わり

当日を待つだけ。

けれど、俺にはあと1つ、

大仕事が残っていた。

「ここは、こうか・・・」

楽譜に書き込みながら

音を作っていく。

「最後のコードを変えてみても
 よさそうだ」

「ここは・・・」

―――♪ 、♪~

らしくない優しくて甘い音が

スタジオに流れる。

愛してる。

傍にいて欲しい。

音のひとつひとつに想いを込めた。

普段、愛の言葉どころか

優しい言葉も贈ることができない俺を

代弁してくれる味方だ。

(きっと、喜ぶはずだ・・・)

(今から悠里の反応が楽しみだ)

悠里を想うだけで溢れるメロディを

リアルに再現する。

悠里へ贈る音のラブレター。

妻に贈るセレナーデは完成間近だった。