9月1日からLaLa TVで『陳情令』(日本語字幕版)の放映が始まりました。

『陳情令』ファンではない方には、何度見たら気が済むのかとあきれられますが、でも、やっぱり、見てしまいます。

夜8時からという時間帯も、私にはちょうどよくて。

 

『陳情令』を初めて見た時には、登場人物やストーリーを理解するため、幾度も第1話に戻って見ました。

例えば、「黒い人」「白い人」から、「魏無羨/魏嬰」「含光君/藍忘機/藍湛」と理解する…といった感じで。

 

ですから、第1話「目覚め」は幾度見たのか、自分でもおぼえていません。

 

その第1話で、16年後のシーン冒頭、講談師が夷陵老祖の話をします。

話を聞く藍氏の若き仙師たち。その一人、藍思追がお茶を口にする場面では、いつも画面越しにお茶のよい香りが漂ってくるように感じます。

 

そして、ついつい、お菓子箱からとっておきの中華菓子を出し、思追に捧げてしまうのです。

(と言っても、お菓子をいただくのは私ですが)

思追には、そうしてしまいたくなるようなところがあります。

 

彼を演じた鄭繁星くん、今日、9月5日がお誕生日なのですね。

「真奶爸(これぞイクメン)(『魔道祖師Q』第25話)の藍湛を演じたYiboくんが、8月5日生まれ。

「俺が生んだ」(『陳情令』第28話)の魏嬰を演じたZhan Zhanが、10月5日生れ。

おもしろいご縁です。

 

『陳情令』の登場人物の多くが、親の愛に恵まれないこどもでした。

死別、離別、生存していて一緒に暮らしていたとしても、愛を向けられていないと子が感じるような親子関係。

 

ファンタジーや児童文学、いわゆる「物語」では、めずらしくない設定かもしれません。

家庭的に恵まれていても、親の保護下から飛び出して冒険することも多々ありますね。

こどもたちだけの世界はユートピアですから。

 

『陳情令』の特別なところは、親たちに代わる者の「愛」が描かれていることでしょうか。

 

澤蕪君と藍湛、師姉と江澄、温情と温寧、赤鋒尊と聶懐桑のような血縁の兄弟姉妹だけでなく、魏嬰と江澄や師姉のような義兄弟、魏嬰と藍湛、宗嵐と暁星塵のような知己など、さまざまな深い愛が物語を織り成してゆくのです。

 

非情な薛洋も金光瑶も、歪な形ではありましたが、愛がありました。

むしろ、愛が強くあったから、歪になっていったのかもしれません。

 

『陳情令』の魅力は、作中に描かれる愛だけではなく、作り手たち、演じ手たちのこまやかな愛で成り立つ作品であること。

それ故、作品のファンである私たちも、深い愛を抱いてしまうのです。

まさに、林海先生がおっしゃった「愛」。

 

思追/阿苑は、彼をかわいがるおとなに囲まれて育ちました。

乱葬崗の暮らしは貧しかったかもしれませんが、阿苑に注がれる愛情は豊かに見えました。

その後、彼は親どころか一族すべてを失い、倖せだった頃の記憶も失ってしまいます。

 

乱葬崗にひとり取り残された阿苑を引き取ったのは藍湛。

自分の手から抜け落ちて、深い谷間へ消えていった魏嬰。

藍湛は自分のその腕を斬り落としたいくらい悔やんだことでしょう。

 

それからの16年間の彼の思いは、同じ経験をした者でもなければ、到底理解できません。

16年。生まれたこどもが高校生になるほどの年月。

並みの人間だったら、心が壊れる凄絶な苦悩だったはずです。

そんな藍湛に思いを馳せるだけでも、私は胸がつぶれたかのように苦しくなります。

 

雲深不知処に「連れて帰り…隠したい」(『陳情令』第25話)と、兄様に告白した藍湛。

その魏嬰の代わりに、連れて帰った阿苑。

阿苑の成長を見守ることは、藍湛の苦悩の僅かな幾分かを癒したかもしれません。

そうであったらよいのに…と、思わずにはいられません。

 

身寄りと記憶を失った阿苑は、藍思追として雲深不知処で育ちます。

聡明で、穏和で、品もよく、問霊の腕も優秀な藍氏若手のホープ。

景儀のような同門の仲間もいて、やがて魏嬰、親族の温寧とも再会します。

やはり、愛される星を持ったコですね。

 

『陳情令』の第一話の初見時、講談師の大きな、でも、ちょっとヤワな扇子が目に留まりました。

その扇子のアップから、講談の依頼主らしき人物の掌中の扇子に画面が移り、折りたたんだ扇子の作りが、講談師のそれとは比較にならないくらい重厚で、とても気になりました。

 

だからでしょうか、彼が講談師に謝礼の金粒を投げたシーンで、一瞬ぱっと開いた扇子の絵柄を見逃さなかったのです。

 

その後、その絵柄の扇子をヘタレな金の雀のコ、聶懐桑が持っていることがわかり、とても驚きました。

彼が講談の依頼主なのか、それとも彼の扇子が他の誰かの手に渡るのか…。

すぐには真相がつかめませんでした。

 

それに対して、思追が阿苑であることは、すぐにわかりました。

阿苑を演じた子役の姜奕廷くん、小さいのに大物感があり、将来がたのしみです。

鄭繁星くんとは、まるでほんとうの兄弟のように面差しが似ていました。

この阿苑が思追にちがいないと、まだ温家が滅んでもいないのに直感しました。

 

思えば、いつもドラマの演出家の思いの通り、はらはらドキドキ、展開に翻弄されるタイプですのに、この『陳情令』だけはこうした直感が働き、伏線もきれいに拾うことができました。

これも愛かもしれません。

 

今夜放映の第三話は「運命の邂逅」。

聞きたくない言葉は禁言術で封じていた藍湛。そんな藍湛の心の封印を解いてゆく魏嬰。

幾周目かの『陳情令』、また完走します。

 

* * *

 

幼い頃、父が中華街で会食をすると、おみやげに中華菓子をいただいてきました。

金や銀をあしらった華やかな紙箱に、色とりどりのお菓子がぎっしりと。

 

今のような脱酸素剤入りの個別包装ではなく、そのまま、ぎゅうぎゅうに詰まっているのです。

こども向きのお味ではないのに、私はなぜか大好きでした。

蓋を開けた時のわくわく感は、お味だけではなく、色や形のうつくしさに惹かれる気持もあったのかもしれません。

 

中華菓子にかぎらず、舶来品が何でも素敵に見えた時代です。

そういえば、舶来品という言葉も聞かなくなりましたね。

 

中華街でも、こうした中華菓子をあまり見かけなくなりました。

幸い、よく行く重慶飯店には、昔のままのお味の、ピンクや黄色や緑色のかわいいお菓子が並んでいるので、いつも童心に戻ってしまいます。