ご無沙汰しております。

またずいぶんと

投稿の間隔が空いてしまいましたが、

その間、お待ちくださっていた皆さま、

ありがとうございます。

 

今日はですね、北海道北部の

過疎の町である美深町で

私たちが営んでいる

たった3室だけ

小さなホテル「青い星通信社」の

ライブラリーについて、

少しお話ししたいと思います。

 

 

これまでにも何度か

ご案内したかと思うのですが、

「青い星通信社」は築70年ほどと推定される

石煉瓦積みの廃屋を

再生させたホテルです。

この廃屋は南北に二棟が連なっていて、

建てられた当時はそれぞれの建物に

警察官のご家族が一世帯ずつ

暮らしていらっしゃったのだそうです。

 

「青い星通信社」はその二棟を

渡り廊下でつないだ構造となっていて、

南側の建物に3室の客室を配し、

北側の建物はまるまる一棟を

ライブラリーラウンジにあてています。

ご夕食とご朝食を召し上がっていただくのは、

北棟のライブラリーラウンジです。

あ、夕食の後はバーになります。

バーテンダーは私です。済みません。

 

 

このラウンジはパブリックスペースですから、

いつでもご利用いただいていいのですが、

そうなると深夜でも

照明は消さずにおかないといけない。

でも無人のラウンジが

煌々と照らし出されているのも、

なんだかちょっと興醒めな気がしませんか?

少し秘密めいて

そして少し謎めいている、

そのくらいのほの暗さがほしいな。

深夜のライブラリーには

そんな光と闇がふさわしいように

私たちは考えたわけです。

そこで現在は、おおむね午後10時過ぎには

北棟の照明はL字型に造られた書棚の

前に垂らされた

白熱電球2灯だけ

点灯しています。

並べられた書籍の背表紙だけが

薄明の中にぼうっと浮かび上がる情景は

ちょっと幻想的でもあります。

いろんな方に見てほしいなあ。

北の町の町はずれの

ライブラリーに閃く幻

でもゲストの皆さんははもう客室で

お休みになってしまっていて、

この時間帯に書棚の前を訪れる人影は

ほとんどないのですけど。

 

 

そうそう、いま“背表紙”と書きましたが、

この書棚にはところどころに、

背表紙ではなく表紙を前にして

置かれている本があります。

お越しいただいたゲストの皆さんには

とくにご案内はしていないのですが、

表紙を前にして置かれているのが、

実はワタクシが個人的に推している本、

推しメンならぬ

いわば“推しホン”でございます。

ときどきは入れ替わるのですが

いま、前を向いて置かれている本は……

『もののたはむれ』(松浦寿輝)

『スペインの雨』(佐藤正午)

『権現の踊り子』(町田康)

『焦痕』(藤沢周)

『雪沼とその周辺』(堀江敏幸)

『容疑者の夜行列車』(多和田葉子)

『きつねのはなし』(森見登美彦)

『カンガルー日和』(村上春樹)

といったところ。

これらの本に共通しているのは

いずれも短編や掌編を

集めたものであることですね。

だって、旅先で長編小説、

読まないですよね〜

それだけで滞在時間が終わっちゃう。

なので、短い時間で読むことができて、

かつ作品としての質が高いものを

前向きにしてあるつもりなのです。

 

そして、そんな短編集の中でも

ワタクシが最も推している一冊が、

『陽気な夜回り』(古井由吉)です。

この本については、

もう語るべき言葉がない。

面白いとか面白くないとかという

価値基準を超越した、

磨き抜かれた日本語の

結晶だけによって形作られた

貴石のような書籍です。

さっき言ったことと矛盾するようですが、

この一冊の本に収められた8編の短編は

そのどれもが

私には簡単に読み飛ばすことの

できない作品です。

つまり読むのに時間がかかる。

ほら、例えばビールだったら

ひと息に喉に流し込む快感

みたいなものを楽しむ飲み方もあるけれど、

上質なワインをがぶ飲み

したりはしないじゃないですか、普通は。

それに似た感覚かもしれません。

ゆっくりと一語一語の精妙な連なりを

確かめながら読み進める感じ。

そこにあるのは“一語一会”ともいうべき

言葉たちです。

 

 

3日前の新聞に、

古井由吉が亡くなった記事が載りました。

また少しずつでも古井由吉の短編集を

読み直してみようかと思っています。

もし「青い星通信社」にお越しいただいて

書棚を見回したとき、

古井由吉の本が見当たらなかったら、

それはおそらく

私が読んでいるところだと思うので、

「読みたいんだけど」と声をかけてくださいね。

すぐにお持ちしますので。