美深町へと帰ってまいりました。

 

えー、別にここで私の詳細な

行動スケジュールを公開する必要はないし、

そこに興味を持つ人もいないと思うのですが、

ちょっと書き出してみると、

 

10日(日)=道北の過疎の町、美深町から

 世界的大都市の札幌市まで直通バスで移動。

 「さっぽろ雪まつり」を見物

 (さき一昨日付「さっぽろ雪まつりに行ってきた」参照

 https://ameblo.jp/hoshitsuru/entry-12439837523.html)。

11日(月•祝)=珍しくも仕事の出張のため、

 朝6時半過ぎの列車に載って

 新千歳空港に移動し、仙台便に搭乗。

 仙台空港でレンタカーを調達し、昼過ぎに

 仕事先である福島県南会津町に到着。

 仕事なんだか飲み会なんだかわからない時間を過ごし、

 終わったのは午前0時。

12日(火)=会津のビジネスホテルで目覚め、

 仕事は前日のうちにあらかた片付いていたので、

 午後の早い時間には南会津町を離れる。

 夜は福島市で大学時代の友人と酒を飲む。

13日(水)=東北新幹線で正午ごろに東京着。

 仕事の打ち合わせ2件と

 去年終わった仕事の打ち上げ1件をこなし、

 以前住んでいたマンションすぐ近くの

 五反田のホテルで寝る。

14日(木)=午後早い便で羽田から新千歳に戻る。

 札幌駅地下の「町のすし家 四季 花まる」で

 寿司を食べる。うまい!

15日(金)=札幌市から直通バスで美深町に戻る。

 真っ白な世界に復帰。

 

うんうん、こんな感じだ。

あ、いまさらですが、

読まなくていいですよ

他人の一週間の行動を知ったって面白くないだろうし、

そもそも、たいして面白いことしてたわけじゃないし。

 

ただ、たいして面白いこと

してたわけじゃないながら、

それでも途中で、

なんだかすごく面白いスポットと

出会いました。

今日はね、その話をしたい。

 

 

ちなみに上の写真はですね、

会津名物の起き上がり小法師です。

これから話すお店とは

何の関係もありません

あくまでイメージです。

会津地方のイメージね。

 

さて、ここでクローズアップされるのは

前掲のスケジュール表の2日目にあたる

11日の“建国記念の日”

(“建国記念日”というのは正式な名前ではありません。

“建国記念の日”と「の」が入るのです。

諸般の大人の事情による)。

この日に出会ったすごく面白いスポットというのは

ある一軒のお店のことです。

その名を「アルフィー」といいます。

 

60代半ばの男性がただ一人で営んでいます。

名前の由来は、もしやして

あの3人組かとも思われますが、

それを確かめることははばかられました。

尋ねたとして、もしご主人に

「そうですよ」と

笑顔で答えられでもしたら、

もしかしてそれってパブリシティ権の

侵害にあたるんじゃね?

という疑問が自分の中に生まれてしまうから。

これはね、知らないほうがいいと思ったの。

そうだよそうだよ、もしかしたら

バート・バカラックが作曲した

名曲『アルフィー』から

採った名前かもしれない。

うん、そっちのほうがよっぽどありそうだ。

 

そんな「アルフィー」の店内に入ってみる。

タイムスリップ感がね、

もうハンパない。

まずBGMがすごいんですよ。

いや、BGMっていうのかな。

店内には30年ぐらい前のラジオの音楽番組が

エンドレスに流れ続けているのです。

ご主人がエアチェックしたものなんでしょう。

いや、“エアチェック”なんて言葉、

いまの若い人はおそらく意味わからないですよ。

まさに死語だね。

「カセットテープに録ったものだったんだけど、

それをいまはSDカードに移したんだよ」と

ご主人は言います。

これは……著作権法には引っかからない……かな?

うん、大丈夫だ。大丈夫なはずだ。

だってともかくね、ここは南会津町。

率直に言って、お客さんなんか

ほっとんどいないのよ、申し訳ないけど。

この夜も客はワレワレ男性4人組だけ。

つまり、昔、個人の趣味でエアチェックしたものを

友人に聞かせているというレベルです。

しっかし、クリアな音だなあ。

30年前にこんなに綺麗にラジオって聞こえた?

「そりゃFMだからさ」

懐かしい洋楽が次々に流れます。

80年代の曲ばっかりが流れる店っていうなら、

たぶんそんなに珍しくはないけれど、

ラジオ番組の録音っていうのは

そうした曲の単なる羅列とは

呼び覚まされる想いがまったく違いますね。

現在という時点に立って

過去を振り返っているというのではなく、

なんか体ごと過去に持っていかれちゃったような感覚。

女性DJの落ち着いた声が

奇妙なことにすごーく胸にしみてくる。

これ誰だろう?

30年前、私もよくこの声を

聴いていたような気がするんだけど。

そうそう、若い人にはもう

“DJ”という職業にしたって

まったく違うものを思い浮かべるんでしょう。

 

店内には、やっぱり30年前とか40年前とかに

作られたポスターが、

天井と言わず壁と言わず、

一面に貼られています。

そのほとんどは映画の宣伝ポスターらしい。

場所が足りなくなったのか、

一度貼られたポスターの上に

別のポスターが2枚も3枚も

重ねられているところもある。

なんかね、もうタイムトンネルだす。

というか、時間の洞窟(同じ意味か)。

洞窟の岩盤には時間が層をなして堆積し、

天井からは滴り落ちてくる水滴のように

ラジオのDJの声が

30年ほどの時を隔てた

記憶の源泉から降ってくる。

 

このお店、業種はなんといったら

いいんですかね。

レストラン……ではないと思う。

バーでもないよなあ。

スナックというのが近いのか。

ともかくご主人一人だけのお店なので、

基本ほうっておかれます。

お客さん一人ひとりにかまっていたら

体がいくつあっても足りない。

その距離感がいいやね。居心地いいです。

もちろん料理もご主人が作るんですが、

ポスターの隙間に貼られているメニューに

載っている品数がまた妙に多い。

ピザとパスタが基本で

そこにカレーなどが加わっているわけですが、

なんだかそれぞれに

すごい数のヴァリエーションが存在しています。

「これ、本当に全部できるんですか?」と

ワレワレの同行者の一人が、

酔っ払っているからか、それとも

もともと無神経なのか、

ブシツケな質問をしたところ、

ご主人はひと言、「できるよ」。

すごい。なんだか木村拓哉主演の

ドラマに出てきた

バーのマスターの田中要次みたいだ。

ワレワレはそこで「サクサクピザ」

(確か1,110円)なるメニューを注文。

しばし間があって

料理が運ばれてきたところで、

先ほどの男が再び「本当に全部できるんすか?」。

ここでご主人は「あのね」と言いました。

「あのね、できないものを

メニューに書くわけないでしょ」。

んだんだ、その通りだ。

ご主人はね、もともと料理人だったんだそうです。

で、自分で店を作ろうとしたときに、

自分の好きなものを集めていったらこうなったと。

そのご主人の手になる「サクサクピザ」を食べる

(ちなみにもちろん普通のミックスピザとか

ベーコンピザとかシーフードピザとかもありますよ)。

うん、不思議な食感だ。

ピザ表面に大量の

パン粉らしきもの

振りかけられている。

それが“サクサク”の由来。

で、本来ならピザ生地の上に

載せられているはずの具は、

生地の中に収められていました。

手が込んでいる。

おいしい。

おいしいが、しかし、

これは私の知っている“ピザ”ではないな。

どっちかっていうとミートパイに

パン粉を振りかけて焼き上げた感じだ。

ビールのグラスが空になっちゃったので、

ジントニック(500円)を頼む。

出されたものを飲んでみると

……不思議だ、うまいけど

私が知っている“ジントニック”とは

やっぱり違う。

まるで鏡の国に迷い込んだアリスの心境です。

自分が知っているはずのものが、

しかしなぜかちょっとずつ違う。

甘くないジントニックを飲み干したとき、

時計の針は深夜零時を指していました。

 

会計してお店を出ようとするとき、

例の男が「マスター、アルフィー好きなんすか?」

と声をかけました。

おい、だからそれを聞くなよ!

「そりゃあ店の名前にしてるくらいだからね」

そうだよ、ご主人はバカラック・ファンなんだよ。

俺もバカラックは大好きだ。

だから、それ以上は聞くな!

 

しかし本当に不思議なお店だったなあ。

南会津町という深い山の中の町で

あんなに趣味性が強い店が

よく成立するよなあ。

それもあんなに遅くまで営業しているなんて。

ホテルに向かってしばらく歩いてから

ふと後ろを振り返ってみましたが、

ワレワレが出たのを潮に灯りを消したのか、

少し寂しい佇まいの家並みの中に溶け込んで、

お店がどこにあったのかさえ

もうわからなくなっていました。

そしてその位置を見失ってしまうと、

洞窟めいた空間で過ごしたこの数時間が

まるで夢の中での出来事のように

急に思われてもくるのでした。

 

 

今度の写真は、南会津町の物産館に

並んでいた秘境羊羹です。

これまでお話ししてきたお店とは

やっぱり何の関係もありません。

あくまでもイメージです。

そう、どこか謎めいた空気をまとった

南会津町のイメージです。