「土星が生まれたときと同じ場所に戻ってくるタイミングのことを、

 

 

 

サターン・リターンというの」とサラさんは言った。

 

 


「サターン・リターン」と僕は繰り返した。

 

 


「土星が戻るから、サターン・リターン。

 

 

 

この時期は、基本的に誰しも大変な時期を過ごすことになるのね。

 

 

 

そのキツさは、程度こそあれ、みんな同じようなものね。

 

 

 

凄くキツいか、もの凄くキツいか、たいていどちらかね」

 

 


「それにもきちんとご褒美があるの?」と僕は訊ねた。

 

 


「そうね」とサラさんは言った。

 

 

 

 

 

 

「その時期は試練とも言えるようなイベントが起こって、

 

 

 

人はそこで初めて本当の意味で大人になっていくの。

 

 

 

人によっては結婚をして責任が増えたり、

 

 

 

逆に離婚を経験したりする人もいるし、

 

 

 

会社で地位が変わったり、

 

 

 

転職や独立を経験する人もいる。

 

 


試練の形は人それぞれだけど、

 

 

 

サターン・リターンは28歳〜30歳の間に必ずやってきて、

 

 

 

けっこうタフな期間が1年くらいは続くのよね」

 

 

 

 

 


僕は自分が29歳くらいのことを思い出してみた。

 

 

 

「たしかに……。そういう時期って、

 

 

 

僕にもあったかもかもしれない」と僕は同意した。

 

 


「そうよね。でもわたしは星読みをしていて思うの。

 

 

 

土星が戻ってくる時期は、たいていみんな、

 

 

 

大変な時間を過ごすことになるけれど、

 

 

 

その辛さって、人それぞれ違うのよね」

 

 


「というと?」



「たとえば以前、ビジネスで成功した男性のセッションをしたときにね、

 

 

 

彼はもう働かなくても、

 

 

 

月に200万円以上の収入がある立場になっていたんだけど、

 

 

 

彼にとってはその状況が本当に辛かったみたいなの。

 

 

 

もちろん彼にも常識というものがあるから、

 

 

 

そんなことが辛いなんて人にも言えないわけ。

 

 

 

周りから見たら良いマンションに住んで、

 

 

 

悠々自適で、経済的にも問題なくて、

 

 

 

ルックスだって悪くなくて」

 

 


「でも彼は辛かった」と僕が加えると、

 

 

 

サラさんは深くうなずいた。

 

 

 

「人によってはお金がないことで悩む人もいるし、

 

 

 

自立できていない自分を責める人もいる。

 

 

 

でも彼みたいに何不自由ない生活をしているような人も、

 

 

 

その人なりの悩みがあるのよ。

 

 


たとえば、"子育ての辛さ" と言ったって、

 

 

 

中身はそれぞれ微妙に違ってくるでしょ?

 

 

 

お子さんが病気の人もいれば、

 

 

 

旦那さんが育児を手伝ってくれなくて辛いと感じる人もいるし、

 

 

 

キャリアと子育てのバランスのとり方で悩む人もいる。

 

 


いずれにしてもわたしが言いたいのはね、

 

 

 

人はサターン・リターンの時期に、

 

 

 

たいてい辛い時期を過ごすんだけど、

 

 

 

その辛さの種類は本当に様々だってこと」

 

 


「なるほどね」と僕は言った。

 

 

 

 

「でも、だからこそ、わたしたちは、

 

 

 

つながることができると思うの」

 

 

 

「つながれる?」僕は首をかしげた。

 

 

 

「わたしたちはきっと、

 

 

 

強さではなく弱さで結びついているのよ。

 

 

 

喜びや幸せな体験よりも、

 

 

 

痛みや苦しみや悲しみの体験でつながっているの」

 

 

 

彼女は、深い湖の底を見つめるような目で、

 

 

 

地面を見つめながら言った。

 

 

 

彼女の言うことが、分かる気もしたし、分からない気もした。

 

 

 

サラさんは話を続けた。

 

 

 

「不思議なんだけどね、星について学ぶと安心できるのよ」

 

 


「安心できる?」

 

 

 

「だって何不自由のない暮らしをしている人にも必ず試練なり、悩みがあるのよ?

 

 

 

それが分かると、苦しんだり悩んだりしているのは自分だけじゃないんだって、、。

 

 

 

それが分かると安心しない?

 

 

 

どんなにうまく行ってそうにみえるあの人も、

 

 

 

悩みを抱えているんだって分かると安心できるのよ。

 

 

 

地球に住んでいる以上、

 

 

 

星からの影響は避けられないんだから」

 

 

 

 

 

 

「もちろん星なんて学んでいなくても、

 

 

 

それは理解できるかもしれないけど、

 

 

 

わたしは星を通じて人を理解した方が、

 

 

 

その人のことがより深く理解できるし、

 

 

 

世界のいろいろなことを受け入れられるの」

 

 


「ふうん」と言いながら、

 

 

 

僕は改めて29歳の自分を思い出していた。

 

 

 

確かにあの頃の僕も(あるいは今の僕も)、

 

 

 

それぞれ悩みの種類は違っても、

 

 

 

それぞれで悩みや葛藤を抱えている。

 

 


「わたしの考え方って少し変わっているかしら?」

 

 


「いや、違うんだ」と僕は言った。

 

 

 

「サラさんの話を聞きながら、

 

 

 

僕の土星が戻ってきてたタイミングのことを思い出していたんだ」

 

 


「どう? 星の影響からは、うまく逃れられていた?」

 

 


僕は首を振った。

 

 

 

僕には僕なりの悩みや辛さがあったのだ。

 

 

 

「たしかに君の言う通りかもしれない」

 

 


「わたしじゃなくて、星がそう言っているのよ」

 

 


「星がそう言っている、か」と僕は言った。

 

 


「わたしたち星読みは、あくまで星の翻訳者に過ぎないから」

 

 


「星の翻訳者」と僕は繰り返した。「なんだか素敵な響きだね」
 

 

 

「翻訳するためには知識も必要だし、

 

 

 

言葉のレパートリーだって必要だし、

 

 

 

人生経験だって必要なの。

 

 

 

わかりづらい星の話を、

 

 

 

なるべく身近なことにパラフレーズするスキルも必要だしね」
 

 

 

 

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