「ということで、レッスン再開ね」とサラさんは言った。
僕は急いで自分のノートを革のクラッチバックから取り出した。
彼女は慣れた手付きでノートに円を書くと、そこに6本の線を引き、
おひつじ、おうし、ふたご……と書いていった。
「うお」まで書き終わると僕の方にそれを向けて「写したいのよね?」と訊(き)いた。
僕は礼を言ってノートにそれを写し取った。
「星座には主に3つの分け方があるの」とサラは言った。
◆2要素、3区分、4元素
まずは2要素からいくわね。これは12個の星座を「陰と陽」で分ける方法ね。
「おひつじ座」からスタートして「陽」と「陰」を交互に配置していくの。
陽、陰、陽、陰、陽……こんな感じで星座をわけていくことで、12星座を6星座ずつに大分(だいぶん)できるわけね。
「陽」の星座さんは昼の星座であり、男性性に区分されると同時に、
何かを放出する人であり、生み出す性質を持った星座さんね。
逆に「陰」の星座さんは夜の星座さんであり、女性性、何かを受容して、育む星座さんね。
【陽のグループ(男性性)】
おひつじ、ふたご、しし、てんびん、いて、みずがめ
【陰のグループ(女性性)】
おうし、かに、おとめ、さそり、やぎ、うお
「ここまでは大丈夫?」
僕は肯きながら急いでメモを取った。
「今度また話すと思うんだけど、地球の1年の流れを決めているのは、『木星』という星でね、
12星座を1年ごとに回って、その星座の分野を拡大させていくのね。
で、その木星が、この「陰」と「陽」の星座を、1年ごとに交互にまわることになるのね。
さっきも言ったとおり、木星は「拡大させる」性質があるから、
陰を拡大させた次の年は、陽を拡大させることになって、
結果的に前の年の流れと真逆に世の中の雰囲気が振れるってわけ。
わたしの言っている意味がわかるかしら?
Do you know what I mean?」
「わからない」と僕は正直に言った。「木星が1年おきに回るってどういうこと?」
彼女はペンで「てんびん」と書かれたところを指して続けた。
「たとえばね、今は地球から見て、ココ、
『てんびん座』の位置に木星があって、その状態が1年ほど続くのね。
この1年は、コミュニケーションがものすごく活発になったり、
交流会が盛んになったり、キラキラ系起業女子が増えたり、
ファッションも美しいものやゴージャスなものが好まれたりするの。
木星は1年間、その星座に滞在して、その星座の分野を拡大させて、
結果的に世の中の流れを決めているの。ここまではオーケー?」
僕は肯いた。
「で、さっきわたしが言った『2要素』で言うと、てんびん座さんは『陽』のグループだから、
この1年は、どちらかといえば、みんなアウトゴーイングな意識になりやすいのね」
「つまりこの1年は、外に意識が向きやすいってこと?」と僕は訊ねた。
「E x a c t l y(イグザクトリー)」と言って彼女は肯いた。
「ちなみに次の1年は『さそり座』に木星が重なるから、
みんなの意識は内側に向くでしょうね、少なくとも今年よりは」
星は社会の雰囲気まで決めているのか、と言いたかったが、僕はやめておいた。
今さらそれを疑ったところで、なにも始まらない気がしたからだ。
◆3区分の話
「話が少し逸れてしまったから元に戻すわね。次は『3区分』の話ね。
さっきわたしがペンで試し書きしたときに書いた3つがそれに当たるの」
そう言って彼女は、「活動・固定・柔軟」というところを緩やかな楕円でくくった。
「これにはすべてお宮(みや)の宮という字を足して、
活動宮(きゅう)、固定宮、柔軟宮って言うんだけど、
やっぱりこれもおひつじ座さんからスタートして、
活動、固定、柔軟と振っていくの。ちょうどこんな感じにね。
で、あとで話す『4元素』と分けるために伝えておくと、
『3区分』は「行動様式」を表して、『4元素』は「価値観」を表すの。
今から話す『3区分』の方は、行動様式のほう、
つまり、人が「どう動くか」を表すってこと。わかった?
◆活動宮
そしたら、まずは「活動宮」から説明していくわね。
彼らはすべて、「始まりの場所」に位置しているの。
占星術でいうところの「始まり」ってなにかと言えば、
春分と秋分、夏至と冬至のことなのね。
春分の日から始まるのが「おひつじ座」さんで、夏至からスタートするのが「かに座」さん、
秋分の日が「てんびん座」さんで、最後の冬至が「やぎ座」さん。
そのタイミングに位置する星座さんたちの特性は、なにかを始めるのが得意というものなの。
この星座さんたちは、みんな始めることが得意で、決断力があって、基本的には未来思考のグループだけど、
他のグループのように、固めたり、調整したりするのは苦手なの。
四文字熟語でいえば、竜頭蛇尾のグループさんね。
はじめは竜のように勢いよく、スケールも大きく始められるけど、
終わりは蛇のように細くなってしまう、ってこと。
良い悪いではなく、そういう性質を持っている、ってことね。
次は固定宮ね。
これは不動宮とか固着宮とも言われるくらいだから、
動かずにじっくり固めていくのが得意な星座さんたちなのね。
活動グループの人たちが始めたことを、せっせと固めていってくれるグループね。
人には役割があるって言ったりするけれど、まさにそのとおりよね。
「おうし、しし、さそり、みずがめ」の人がこれに当たるんだけど、
固定宮の人たちは、なにかを始めることや変えることは苦手だけど、
いったん始めたことを、地道に続けて形にすることに関しては、とても強い星座さんたちなのよ。
季節で言えばちょうど「盛り」の時期よね。
その季節を、よりその季節「らしく」してくれるのは、
固定グループの星座さんがいるおかげなの」
彼女がそう言ったところで、店員が僕たちのハンバーガーを持ってきてくれた。
見慣れたいつもの食べ物が、不思議と違って見えた。
「ひとまず食べない?」と僕は言った。
そう言って、サラさんを見ると、彼女はすでにポテトをつまんでいたので、僕もそれに続くことにした。
僕たちはほとんど無言で、半分ほどそれらを食べ続け、
僕はコークを飲んで、サラさんはアイスティーを飲んだ。
「美味しいわね、これ」一段落したところで彼女は言った。
「主張せずに素朴なところが好きなんだ」と僕は言った。
「まるで『おとめ座』さんみたいね」
僕はペーパーナプキンで手をふいてノートに意識を戻した。
「最後は柔軟宮だよね?」
彼女はポテトを一つつまむと、小さな杖でも振るみたいにそれを軽く揺らしてから口に運んだ。
「そうね。最後は柔軟宮ね」
↓
◆最近の投稿一覧。
↓